福岡県警の対応に問題はなかったのか

川野さんは勤務先の人材派遣会社で昇進が決まり、喜んでいたそうだ。11歳になった娘を絵画教室に送り迎えする姿は、幸せそのものに見えたという。

だがその幸せを、寺内の刃渡り20センチの刃物が切り裂いてしまったのである。

周囲を明るく照らす太陽のようだった彼女は、生きていれば39歳の誕生日だった日に、親しい友人らに囲まれて荼毘に付された。

文春は触れていないが、川野さんから相談を受けた福岡県警と那珂川市を管轄する春日署の事件対応に問題はなかったのだろうか。

たしかに、寺内の逮捕歴や威嚇、粗暴な性格などをかんがみて、規制法に基づいて接近禁止令を出し、本人にも伝えたようだが、これまでの事例を見ても分かるように、「法的対応を受けることで動揺して不安を強めたり、逆恨みしたりする恐れもある」(産経新聞1/19〈木〉20:49配信)のだ。

私事で恐縮だが、はるか昔、私が月刊現代という部署にいるとき、講談社の女性社員から、妹が右翼で暴力団員を名乗る男に付きまとわれ、困っていると相談を受けたことがあった。

私は友人の右翼の大物に相談して、その男と対峙しようとなった。だが、それを察知した男は、娘ではなく身体の悪い父親を自宅から拉致し、どこかに監禁してしまったのだ。

当時はストーカー規制法などない時代で、娘が警察に相談に行っても、「民事不介入」を盾に動いてくれない。

毎年のように何度も起きている

私と彼で、男のヤサを探し出して踏み込んだ。父親が縛られて地下室にいるのを見つけたが、男は逃げた後だった。ストーカーではなく父親の拉致・監禁罪で訴え、男は捕まった。だが、出てきたらまた同じことを繰り返すのではないかと数年、彼女と連絡を取り続けた。

今は規制法ができたために、当時よりはよくなったと思うが、今回のようなストーカー行為から殺人事件に至る悲劇は毎年のように何度も起きている。

朝日新聞デジタルで「ストーカー殺人」で検索すると、いくつも出てくる。

小金井ストーカー殺人未遂事件(2016年5月21日)。芸能活動を行っていた女性のファンを自称する男が、ライブハウスで彼女を刺殺しようとした。

2018年2月6日。フィリピン国籍の女性をストーカーしていた男が刃物を持って家に押し入り、一家3人を襲撃して家に火をつけた。

2020年6月。静岡県沼津市の女子大生が、同じ大学に通う21歳の男に腹や首などを刺されて殺害された。好意を抱き、一方的にLINEを送ったがブロックされたことで、「生きがいを奪われた」と逆恨みしたという。

2020年8月30日。東京中野区の38歳の女性が、元交際相手に殺害された。男はすぐカッとする性格で、別れを切り出すと、「死ぬ」「恨んでやる」というメールを送り付け、彼女の首を絞めたり殴ったりする傷害容疑で書類送検されていた。警視庁からも注意を受けていたが、犯行を止めることはできなかった。