8250円の本40冊が1日半で完売した

担当になった翌年、東日本大震災で書泉グランデも被害を受けた。しかし棚からこぼれ落ちた数学書をどの棚に戻せば良いのか、布川さんにはわからなかった。結局、前任者に手伝いを頼んだという。

とはいえいつまでもわからないでは済まされない。とくに書泉グランデでは、お客さんに書店を知ってもらう、来てもらうという能動的な働きかけが書店員にも求められていた。布川さんが最初に手を付けたのが、売り場の「書泉_MATH」というツイッターアカウントだった。

「前任者がアカウントを作っていたので、とりあえずこれを更新していくことから始めました。でも新刊の告知だけではつまらない。それで日々の記録みたいなことを調べて、フーリエの誕生日にフーリエ解析の本を紹介したり、岡潔の没後40周年に合わせた記念講演会を行ったりしました」

切り口を変えてみれば新刊だけでなく既刊本でも、ツイッターで紹介できる本はたくさんあった。

「たとえ20年前に出版された本でも、出会ったときがその人にとっての新刊本だと思うんです」

本の仕入れ方も特徴的だ。

「価格の高い本を入れるようにしています。他の書店では少部数しか入れないだろうから、高額書籍でもあえて積極的に」

そうやって仕入れて売れた本のひとつが、『楽器の物理学』(丸善出版)だ。20年前に他の出版社から出て、10年前に今の丸善出版に移行して出版された。価格は8250円と、書籍の中では高額だ。ためしに1冊だけ仕入れてみると、すぐ売れた。また1冊だけ入れるとすぐ売れる。それで思い切って40冊も仕入れると、1日半で全て売り切れたという。