日本と他国で全く違ったゼレンスキー大統領の演説
ここまでの話を象徴しているな、と感じたのがウクライナのゼレンスキー大統領の演説です。
2022年3月23日、ロシアのウクライナ侵攻についてゼレンスキー大統領が日本の国会で演説をしました。ゼレンスキー大統領はほかの国の国会や国連でも演説をしていて、多くの国は「あなたの国で演説したい」というゼレンスキー大統領の意志を無条件に受け入れ、対応しました。
ところが日本だけ、「前例がないので可能かどうか」という議論がまず出てきました。結局、演説は実現したわけですが、その内容は、他国でのものとは違っていました。
ドイツには政治姿勢を明確にするよう求め、欧州の各国には具体的な支援やケアを要求したゼレンスキー大統領ですが、日本に対しては、「日本はすぐに援助の手を差し伸べてくれました。心から感謝しています」と、まず誉めたたえた上で、夫人がオーディオブックをつくるプロジェクトに参加した際、選んだ題材が日本のおとぎ話だったことを述べました。
そして、「同じように温かい心を持っているので、実際には両国間の距離は感じません。両国の協力、そしてロシアに対するさらなる圧力によって、平和がもたらされるでしょう」と、共感を求めたのです。
もちろん、「ロシアとの輸出入を禁止し、軍に資金が流れないよう、ロシア市場から企業を引き揚げる必要がある」などの現実的な方策について言及もしています。
しかし全体には情緒にあふれ、ロシアのチェルノブイリ原発の占領と広島・長崎を暗に重ね合わせるなどした、日本人の共感を求める内容の演説だったことは、皆さんの記憶にも新しいことと思います。
「日本人にロジックは刺さらない」
ゼレンスキー大統領が日本でだけこのような演説をした理由について、日本はウクライナと距離が離れていて物的援助は現実的ではないからとか、同じロシアの隣国としてロシアの脅威を日本が感じることが今後の国際社会に対して効果を持つからとか、日本の知識人はそれらしく解説していました。
それらの側面もあると思いますが、僕は正直に言ってしまうと、「日本人にロジックは刺さらない」という、諸外国の認識もあるような気がしてなりません。
つまり、情緒的なこと、感情に訴えるようなことは効果があるけれど、ロジカルに必要な支援を要求しても日本人は理解しないし、感動しない、むしろ反発するかもしれない。
国際社会でそう認識されているからこその、あの演説だったような気もするのです。