胃の内容物に触れていないのは不可解

第2の理由は、記事内容に不可解な点が見られることである。

『北海タイムス』の記事では、捕獲した個体の特徴が一切触れられていない(年齢、性別、身長、体重を掲載するのが当時のヒグマ関連記事の通例である)。

また「右大腿部から腰骨まで全部喰い尽くし白骨が露出していた」なら、相当量の人肉を喰っているはずだ。

加害熊は6時間後には射殺されているが、胃の内容物についての言及がない。

当時の新聞が、事件記事全般について、かなり扇情的な表現で報じる傾向が強かったことを考えると、熊の特徴や胃の内容物に触れていないのは不可解である。射殺されたのが、本当に加害熊だったのかどうか、疑問が残る。

胃袋のイラスト
写真=iStock.com/ilbusca
熊の特徴や胃の内容物に触れていないのは不可解(※写真はイメージです)

加害熊だったと宣伝して、村民を安心させる

第3の理由として、熊狩りの結果、加害熊ではない熊を射殺することも多かったことが挙げられる。

人が襲われると必ず熊狩りが行われたが、捕獲した個体が加害熊でなくても、加害熊だったと宣伝して、村民を安心させることがしばしばあったという。

筆者はそういう事例を、少なくとも3例は知っている。

これらのことから、筆者は、射殺されたのは加害熊とは別の個体であり、3つの事件は同じ個体によって引き起こされたのではないかと考えている。