職人技に隠された知見とは
私が「人的資本」と聞いて真っ先に思い出すのは、あるカメラメーカーのエピソードです。そのメーカーでは、東日本大震災のときに関東地方にある工場が被災して、生産がストップしてしまいました。
私はてっきり製造ラインが壊れたのだろうと思っていたのですが、そうではなかったのです。そのメーカーには非常に優秀なレンズを磨くのを専門にした職人さんがいました。
ここのレンズは世界的な評価を得ており、アマチュアからプロまでカメラを手にする人の多くの垂涎の的となっています。
この世界的評価の高いレンズの最終工程をその職人さんが担当していたのですが、自家用車で通勤していたその人が、震災の影響によるガソリン不足で出社できなくなってしまいました。だから出荷を止めるしかなかった、というのです。
すごいことだと思いませんか? この方が持っているのは、他の人にない「知見」であり、まさに「人的資本」そのものです。
「それほど会社の利益に寄与しているということは、その方のお給料は高額なのですか?」と、同社IRの方に尋ねたところ「普通じゃないかな」とのことでした。
「人的資本の可視化」というこのたびの施策によって、こうした方々にもっとスポットが当たり、正当な評価を得られるようになることを切に願わずにいられません。
個人が有するノウハウにこそ価値がある
私は野村證券時代、定年退職を迎えたことで先輩方が持っていたすごいノウハウや知見が埋もれていくことを、とてももったいないことだと感じていました。
野村證券には、何兆円もの資産を持っている大企業のオーナーに対して金融アドバイスができるほどのノウハウを持っている人がたくさんいたからです。
私などは100億円くらいまでならアドバイスができるのですが、兆を超えるとわからなくなってしまいます。ところがそれができる先輩方がいて、しかもちょっと失礼な言い方になってしまいますが、そうした方々の多くは際立った出世をされていないので、退職したとたんにそのノウハウが全く生かされなくなってしまうのです。
そんな「埋もれた知見」を活用しようという企業があります。
■ビザスク(4490)
<会社プロフィール>
【特色】ビジネス知見持つアドバイザーと顧客をつなぐ「スポットコンサル」展開
【連結事業】知見プラットフォーム
【黒字化】日米人材データベースの相互活用で国内外の需要開拓
【新分野】質問を送ると5人以上の有識者が24時間以内に回答する「ビザスクnow」育成
※『会社四季報』2022年4集秋号より
日本初にして最大の「知見のプラットフォーム」の会社です。同社が提供するサービスの通称は「スポット」+「コンサルティング」を組み合わせた「スポットコンサル」。さまざまなビジネス領域に精通したアドバイザーに、1時間から対面・電話で相談できる仕組みになっています。
私が興味を持ったのは代表取締役CEOである端羽英子氏の経歴です。東京大学を卒業後、ゴールドマン・サックスに入社され、若くして結婚。お子さんを出産後、MBAを取得されたそうです。株式総会でもとても好感が持てました。