貧困層は質の低い無届施設を利用するしかない

この問題は、ユニット型特養ホームの空所だけにとどまらない。それは、「介護できない介護付有料老人ホーム」「囲い込み型高齢者住宅」「劣悪な無届施設」など問題のある高齢者住宅の増加とリンクしているからだ。

手厚い介護システムの介護付有料老人ホームを作っても、そのターゲットとなるアッパーミドル層はユニット型特養ホームに取られてしまう。そのため、重度要介護や認知症の増加に対応できない要支援・軽度要介護高齢者を対象とした「20万円前半」の【3:1配置】のものが多くなる。

濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)
濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)

ユニット型特養ホームにも介護付有料老人ホームにも入所できない、低所得低資産の重度要介護高齢者が頼る先が押し売り介護など不正の温床となっている「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」だ。囲い込み型のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や住宅型有料老人ホームはユニット型特養ホームと同等か低価格に抑えられている。そこにも入所できない貧困層は、月額費用10万円未満の無届施設に流れていくのだ。ここには、価格だけでなく入所までの期間の問題もある。

転倒骨折・脳梗塞などで突然要介護状態になり、病院から早期退院を求められて頭を抱えている家族にとって、「申し込んでも数カ月~数年待ち」「いつ入所できるかわからない」という特養ホームは役に立たない。そのため、申し込んだ次の日にも入居できる「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」に頼らざるを得ない。言い換えれば、特養ホームに入所できるのは、本来の「緊急性の高い高齢者」とは正反対の、金銭的にも時間的にも精神的にも余裕のある人だけなのだ。

これが特養ホームの待機者が一気に減少し、その一部には空床ができている最大の理由だ。

「特養ホームの整備によって待機者が減った、待機期間も短くなった」
「特養ホームの供給が需要を上回っている地域もでてきている」

そんな単純な話ではないのだ。

莫大な社会保障費が無駄づかいされている

言うまでもなく、この制度の矛盾と混乱は、莫大な社会保障費の無駄・浪費につながっている。自宅や高齢者住宅で生活する要介護高齢者と比較すると、ユニット型特養ホームの入所者一人にかかる費用はプラス年間180万円、これが増加分の30万人として年間5400億円。

囲い込み型高齢者住宅や無届施設のうち、要介護高齢者に押し売りされている介護医療費は、それぞれ年間100万円(計200万円)以上、重度要介護高齢者の数を30万人と仮定すると、年間6000億円。合わせて1兆1400億円にもなる。

これ以外にも認定調査の改竄や不正請求、ユニット型特養ホームの「応益負担・応能負担」の不備などを勘案すれば、さらにその金額は数千億円規模で膨らむ。2020年現在の国内の介護費用の総額が10兆円であることを考えると、その金額の大きさがわかるだろう。

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