風邪薬は飲んだ方がいいのか。医師の山田 悠史さんは「風邪はありふれた病気ですが、治癒を導く薬も、治りが早くなる薬も、何ひとつ証明されていません。症状を和らげるという利益とさまざまな副作用のバランスを考えて使う必要があります」という――。
※本稿は、山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです
風邪薬は風邪を治すのか
新型コロナのパンデミック以降、あまり風邪の話を聞かなくなったかもしれませんが、風邪も実はとても厄介な病気で、大人が普通に生活をしていると1年で平均2回ほど風邪をひくと報告されています(注1)。米国での試算では、風邪によって社会人の年間2300万日もの欠勤を招いていると報告されていて(注2)、社会的な損失の大きさがうかがえます。そして、この損失を減らすため、これまで風邪の研究には億単位の投資が行われてきました。
そんな身近な病気である風邪にかかった時、「風邪薬を飲まなくちゃ」と思われる方が多いかもしれませんが、実際のところ風邪薬は風邪を治してくれるのでしょうか。
残念ながら、端的な答えはノーです。風邪はこんなにもありふれた病気にもかかわらず、根本的な治療は残念ながら見つかっていないのです。風邪の治癒を導く薬も、治りが早くなる薬も、何ひとつ証明されていません。あるいは、ビタミンCなどのビタミン剤やエナジードリンクなどのサプリメントが有効とする根拠もありません(注3)。
なぜ、風邪薬を飲むのか
それならば、なぜ私たちは風邪薬を使うのでしょう。
それは、風邪を治すためではなく、風邪の症状を軽くするためです。もし医師や薬剤師、あるいはあなたの友人が「○○という薬が最も風邪によく効く」「薬は風邪のひきはじめに飲むと治りが早い」という話をしていたら、残念ながらそのセリフには根拠がありません。
ただし、これはあなたの経験則で「この薬が最も有効だ」ということを否定するものでもありません。少なくとも、あなたの経験則を他人にあてはめて「この薬は効くから試すといいよ」と公正に勧めることはできない、ということです。