学校でも黙食をやめると生徒の楽しみが増す

少し文脈は異なるが、私は実際に、学校生活において黙食の廃止や体育の時間などでマスクを外してもいいという指導によって子どもたちが学校生活を「楽しい」と思うようになるのか独自に5000人の調査を行って検証したことがある(高久・王 2023)。ある意味当たり前だが、感染対策を緩めることで学校は楽しくなるようだった。特に、黙食の廃止は「給食の時間」を大幅に楽しいものに変えるようだった。

マスクの着用をはじめとした感染対策を緩めることによって職場の雰囲気が良くなったり、従業員が職場を楽しいと考えるようになる点については、企業もおそらく同じだろう。「楽しさ」は感染者数など客観的に把握できる指標と比して過小評価されがちで、実際に大幅に過小評価されてきたと考えられるが、楽しくないことで大きな業績を上げることは誰しも難しい。

そもそも、公衆衛生上の介入であっても、政策評価のエンドポイントとして満足度の向上や介入による不快感の緩和は重要な要素として考えられている。「健康アウトカム」のみで政策を決めていいということにはもちろんならない。重症化率が低下したオミクロン株では、コロナの感染自体による被害は、多くの人にとって数日間の発熱と息苦しさにとどまる一方で、マスクは毎日着用し続けている。各企業においても業務内容ごとに、あるいは季節によっても異なる感染リスクを見極めながら、着用の基準について見直す機会があっても良いだろう。

やはり感染拡大期はマスク着用すべきか

なお、感染拡大期で「ピーク」を下げることに重要な意味がある場合には、集団的なマスク着用は積極的に推奨されるべきだろう。例えば、感染拡大により医療のキャパシティーが限界を迎え、必要な医療にかかれない患者が続出する場合などがこのケースに該当する。着用によるパフォーマンスの低下はスメルドン博士の論文を読む限り、高度に知的な思考を競争的環境で働かせなくてはならない時に限られることに加えて、マスク着用による副作用は時間とともに減衰するなど、感染が上昇局面となりピークアウトする1~2カ月程度の間であれば多くの人にとって許容範囲だと考えられる。着用によって感染拡大幅を一時的にでも引き下げる効果のほうが重要となる場合はあるし、そう考えて多くの人もマスク着用に協力している。