顧客による奪い合いが始まった

さらに驚愕したのは、「プロサングエの生産台数は、フェラーリ全体の2割以下にとどめる」と発表されたことだ。つまり、ポルシェやランボルギーニのようにSUVをバカバカ売って儲けるつもりはありません、ということ。ビジネスモデルが違ったのである。

それは、価格設定によく表れている。プロサングエは、現地価格で39万ユーロ。発表当時のレートだと5620万円! 1118万円から買えるカイエンや、同じく3068万円からのウルスとは別次元にあり、ロールスロイス・カリナンの4258万円をも大きく上回っていた。

フェラーリはこのプロサングエを、量産型の普及版フェラーリどころか、新たなフラッグシップとして誕生させた。これには、口さがないカーマニアも黙るしかなかった。

フェラーリの優良顧客たちは鋭く反応し、即座に激しい奪い合いが始まった。なにしろプロサングエは、フェラーリの新たなフラッグシップ。生産台数も限られている。つまり資産価値が非常に高い。それでいて4人が乗れて荷物も積める。これまでのフェラーリに比べると断然便利だ。

都心の一般道では、都心に住む富裕層が乗るフェラーリを頻繁に見かけるが、どこか無理をしているように見えてしまう。私は30年来フェラーリを所有しているが、ふだん用に使ったことは一度もなく、フェラーリに乗ることだけを目的に、ごくたまに走らせるのみだ。それが正しいフェラーリの使い方だった(と信じる)。

しかしプロサングエなら、お買い物用に使っても違和感がない上に、プレゼンス性は地上最高。富裕層にとっては、ぜひ1台欲しい存在だ。

日本だけ800万円も安い謎

11月8日。京都・仁和寺にて、プロサングエの日本発表会が開催された。

衝撃は続いた。日本向けの価格が4760万円と発表されたのだ。本国価格より800万円以上安い。いったいどういうことだろう?

確かにこのところ、円相場は急落したが、それはドルに対してで、ユーロに対してはそれほどでもない。ここ5年間のユーロ/円の平均相場は130円前後。その計算でも、本国価格は5070万円になる。遠い日本までの運送費を考えると、信じられないバーゲンプライスだ。この価格設定には、いったいどんな狙いがあるのか?

日本は、超高級スポーツカーメーカーにとって、大変ピュアな市場である。ポルシェでもランボルギーニでも、フラッグシップの911やアヴェンタドールの販売比率が世界で最も高く、逆にSUVの販売比率は比較的低い。

フェラーリでは、V8ミドシップモデルの人気が高く、フロントエンジンのV12モデルは「スーパーカーらしくない」ということで不人気だった。70年代のスーパーカーブームの影響が今でも続いているのだ。