中国政府は死者を“計7人”と発表したが…
見方を変えれば、中国企業の製造した治療薬よりも、主要先進国の治療薬を手に入れなければ身の安全を守ることは難しいと危機感を強める人は増えていると考えられる。感染から身を守らなければならないという人々の危機感、防衛本能は一段と高まり、休日の北京市内は閑散としている。飲食などのデリバリー、物流などさまざまな分野で人手は不足している。状況は2020年春先、厳格なロックダウンによって人の移動が徹底して制限された武漢市を彷彿とさせる。
また、経済の中心地である上海市では、年明けを控える中で例年のにぎわいが見られないようだ。上海市などでは対面からオンラインに授業を切り替えるよう指示が出された。内陸部や農村地帯における状況はさらに厳しいと推察される。
その状況下、12月18日に2人、19日には5人の新型コロナウイルス感染による死者が確認されたと共産党政権は発表した。対して、SNS上では犠牲者はそれよりも多いとの投稿が相次いだ。医療逼迫の解消のために動員されている医学生の反発も高まっている。海外からも懸念が示されている。米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は2023年、中国の新型コロナウイルス感染による死者数は100万人を上回るとの予想を公表した。
なぜ十分な準備が進められなかったのか
当初、共産党政権は徐々にゼロコロナ政策を緩和する考えだった。その一つには市民の不満への配慮があっただろう。また、土地譲渡益の減少によって地方政府の財政状況は悪化している。その状況下で、大規模検査や厳格な移動制限を続ければ、地方財政の悪化リスクは一段と上昇するだろう。
そうした展開を避けるために、12月上旬以降、ゼロコロナは緩和された。ただ、その準備は十分ではなかった。特に、医療体制の逼迫度の高まりはかなり深刻とみられる。12月21日、WHOは中国の病院は満床に近づいているとの見解を示した。中国は海外の事例を参考に、ウィズコロナの準備を十分に進めることができていなかったと考えられる。
背景には、共産党政権全体を貫く人々の意思決定メカニズムが大きく影響しただろう。共産党の幹部にとって最も重要なことは、習近平総書記をトップとする最高指導部の指示を徹底して守り、命令と計画に従った行動を重ねることにあるようだ。過去にもそうした価値観を確認するケースはあった。