それぞれの刑務所には“花形の仕事”が存在している

特徴その② いい子ちゃんぶる

人懐っこくて巧みにおべっかを使うのに加えて、ベテラン被収容者は何かにつけ聞き分けが良い。返事も「はい」か「いいえ」と簡潔で、ぐだぐだごねたりはしない。本音はどうだか知らないが、無駄に自己主張するのは損だとわきまえているから、とりあえずはいい子ちゃん的態度を取るのだ。

いい子ちゃんでいることによる恩恵は、診察室の中だけにとどまらない。じつは刑務所というところは、態度が良いと評価が上がり、良い仕事につける。良い仕事というのは、たとえばエリート工場のことだ。所内にはたくさんの種類の工場があるのだけれど、内訳は割りばしを揃えて束ねるだけのごく簡単な作業から精密機器を扱うような熟練を要するものまでレベルはまちまちだ。

高度な仕事につけるのはある程度の能力を見込まれた証と言える。中にはかなり重要な印刷物を扱う工場もあって、ここは情報管理の点から厳密にセレクションされた者だけが務めることができる。仕事内容によって報奨金の額も違ってくるし、こんなヒエラルキーが彼らの自尊心をくすぐるのだ。そして、日本国じゅうどこの刑務所にも看板となるような工場がある。たとえば富山の神輿、盛岡の南部鉄器、横浜の製麵工場などがそれ。

ツウの間で人気のイベントに、毎年行われる全国矯正展というものがあるのだけれど、そこに出展されるような製品を作っている工場がエリートである。つまり、こうした工場に配置されるのは、刑務においてのある種の花形はながたなのだ。

「昇進」すれば暮らしぶりはかなり改善される

〈制限区分1~4種〉と呼ばれる昇進みたいなものもある。これは2006年の法律改正から取り入れられた制度で、受刑成績などにより生活や行動の制限を緩める仕組み。数字が小さくなるごとに自由度が上がる。

【図表】制限区分1~4種

1種と4種では暮らしぶりが雲泥の差なので、まともな人間ならばできる限り1種に近づきたいと願う。昇進時期は不定期未定なため、受刑者は日常的に清く正しい態度を継続している必要があるのだ。もうひとつ、〈優遇措置〉というものも刑務所暮らしでは大切だ。手紙を出せる通数、嗜好品の購入、テレビの視聴などが5段階に区分されている。

【図表】受刑者の優遇区分