「支社から来たスパイだ」

しかしそんな壁を突破するのに、秋田時代の経験が生きた。秋田時代、支社から営業現場の事務に配置転換されたときのこと、いぶかしく思った支部長から「営業現場の様子をチェックしにきた、支社からのスパイだろう」と思いがけない疑いをかけられたことや、どうしても社内のルール上、承諾できない支部長からの相談を断った時に「営業現場のことを何も知らないくせに!」と電話をたたき切られたこともある。まだ関係の浅い相手といかに信頼関係を築いていくかということを、新城さんは電話で、対面で28年もの間学んできたのだ。

そこで、新城さんが行ったことは、直属の部下全員に直接会いにいくこと。

山形を走る道路
※写真はイメージです(写真=iStock.com/thanyarat07)

山形には5つのブロックに分かれた拠点があり、それぞれに女性のサブマネージャーがいた。片道2時間以上かかる場所もふくめ、県内各地に点在する各拠点へ毎月足を運び、全員と面談をした。その上で、それぞれの人柄を見極め、裁量を与えて任せることにしたのだ。

「それまでは決断は総務部長かグループマネージャーがして、それを実行にうつすのがサブマネージャーという役割分担が組織内にありました。でも思い切ってサブマネージャーの裁量を大きくすると決めて、チームの活性化を目指したんです」

するとみるみる部下のモチベーションが上がり、毎月のように変化があらわれ、数カ月後には社長表彰を受けるほどに成長を遂げた。

「女性がマネジメントをするという意識が今よりも低い時代だったからこそ、『あなたならできる』とやる気を引き出すことが大切でした。そのためには一人ひとりのキラリと光る部分を見つけ、『対応が良いね』『あなたに会うだけで元気が出るよ』と素直に褒める。悪いことも遠回しにせずにすぐ伝えて、心をオープンにすることを心がけていました」

「9年間の5回の転勤」で知った大切なこと

総合職になってからは9年間で5回の転勤を経験した。中でも苦戦し一番つらかったと振り返るのは、次の大阪時代だった。サービス部門で初の女性室長に任命された新城さんは、部門を支える女性人材の活躍を推進するための企画も任されるようになる。それまでに企画の経験はまるでなかった新城さん。何から手を入れたらいいのかわからず途方に暮れた。

「企画を何度持って行っても、思うように通らない。最終的には、女性リーダーの本を読んだことをきっかけにセミナーを開催するなどしたのですが、それまでの道のりが険しくあの時ばかりは心が折れかけました」と漏らす。

そんな大阪時代に受け始めたのがコーチングだ。併せて脳科学や心理学なども学び、そこで自分の心の状態を整えることの大切さを知る。

ヨガの蓮のポーズで呼吸を整える
※写真はイメージです(写真=iStock.com/gmast3r)

コーチングの先生に「仕事で目標達成のハードルを上げ過ぎていませんか? 幸せを感じるハードルを下げてみることで気持ちが楽になりますよ」と教えてもらったことが今の仕事にもつながっているそうだ。

「大切なのはまず、自分自身が『ウェルビーイング(より良く生きる幸せ)』を実感すること。オフの時間にはヨガなどでリラックスし、空を眺めるだけでも幸せな気持ちになれることを知りました。そうやって肩の力を抜けたことで、仕事もうまくまわるようになっていったんです」