第2次安倍政権下で消費増税の延期が決定された。このときに出てきたのが、公明党が導入を強く主張した軽減税率である。これと同時に「消費税の複数税率制度の下において適正な課税を確保するため」という理由でインボイス制度の導入が決まった。

軽減税率を導入したのは日常生活に影響の大きい飲食料品の税率を低くすることで消費増税による家計負担を軽減するという目的がある。しかし、裏を返せば飲食料品の税率を8%に据え置くことで、それ以外の消費税を引き上げやすくなったとも言える。

レシートを確認する女性の手元
写真=iStock.com/LordHenriVoton
※写真はイメージです

大手マスコミはほとんど報じてこなかった

また、もう一つ見逃せない要素が大手メディアの問題だ。軽減税率は飲食料品以外になぜか「定期購読の新聞」も対象になっている。大手紙や地方紙といった一般家庭で広く読まれる新聞のみが対象となっているのだ。前述のように、消費税は企業の付加価値に対してかかる税金なのでわずか数%の違いでも税率が低いことの恩恵は経営的に極めて大きい。

将来的に消費税がさらに増税されたとしても新聞も対象となる軽減税率の8%が維持されるのであれば批判的な報道も起こりにくいことは容易に想像できる。逆に、批判的な報道がなされる場合は軽減税率の8%も引き上げてしまえばいい。大手メディアは首根っこをつかまれた状態といえる。そのためなのか、軽減税率と表裏一体のインボイス制度についての問題点はほとんど報じられてこなかった。

しかし、インボイス制度の問題は免税事業者への影響だけにはとどまらない。ほとんどの人が何かしらのマイナスの影響を受け、社会全体を大きく混乱させる可能性があるのだ。

前出の落合議員は指摘する。

「例えば大手小売りチェーンであれば取引先も膨大になります。それら1社ごとに『インボイス登録しているか』を確認しないといけなくなる。会社員であっても、タクシーや居酒屋を使うにしてもインボイス事業者でなければ経費としては認められないため、いちいちインボイス事業者か確認して使わなければいけなくなる。こうした社会的コストは膨大で、国民の誰しも不利益を被る可能性があります」

与党議員からも慎重論

インボイス事業者の登録は来年4月までとされているが、10月時点では課税事業者のうち法人(約200万者)では57%、個人(約100万者)では22%の登録にとどまっている。周知も不十分なまま来年10月に制度が開始されると社会的な混乱は避けられないだろう。

こうした批判の声を受けて与党内からもインボイス導入に慎重な意見も出てきている。