出典:取材をもとに編集部作成

裏通りで家族経営なら、人件費はさらに圧縮できる。店主=従業員だから、最悪の場合、店主のための利益を確保しなくても成り立つのである。たとえば夫婦で年間700万~800万円の人件費が計上できれば、それだけでも夫婦はまあ普通に生活はできる。従業員への支払いに要する人件費と店主のための利益とを区分して別々に確保する必要がない分、圧縮が可能なわけである。

一方、大規模商業施設内に立地して固定費が高い店の場合、オーナーのための利益を確保するために、原価を抑える一方で、料理の価格は高めに設定することになる。それでも東京の有名施設ともなれば全国や海外から毎日異なった客が大勢集まってくる。いわゆる一見さんだ。一見さんは「今日は結婚記念日だから」とか「○○のお祝いで」と、ハレの日としての需要が多く、高めの価格に対しても財布の紐は緩みがちだ。

しかし、このような大規模施設店の抱える事情や状況は、純粋に安くておいしいものを求める消費者側からすると、あまりメリットはない。

もちろん裏通りの名店も初めから遠くてわかりづらい場所を望んだわけではないだろう。家賃などの問題でそこで商売を始めざるをえなかったケースが多いはずだ。しかし固定費負担の少なさを、きちんと料理の質に還元したからこそ不利な立地条件にもかかわらず生き残り、結果として常連を抱える名店となったと言うべきなのである。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=小山唯史 撮影=市来朋久、宇佐見利明、坂本道浩 図版作成=ライヴ・アート)