今年8月、崎陽軒のシウマイ弁当の具材が59年ぶりに「マグロ」から「鮭」に変わった。1週間限定とはいえ、歴史に残る決断を下したのは、その3カ月前に40歳で昇格したばかりの野並晃社長だった。野並社長は「やりたくてやったことではなく、本当に申し訳ないという気持ちです」と話す。ライターの伏見学さんが取材した――。
崎陽軒の野並晃社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
今年5月に崎陽軒の社長になった野並晃さん。

59年ぶりのメニュー変更という珍事

2022年8月、“事件”は起きた。

崎陽軒(本社:横浜市)のシウマイ弁当の「鮪(マグロ)の漬け焼」が「鮭の塩焼き」に変わったのだ。原材料不足による苦肉の策ということで、1週間という期間限定だったが、具材の焼き魚が変わるのは59年ぶりだった。

崎陽軒は「起こしてはならないこと」とお詫びしたが、消費者の間では「シウマイ弁当がリニューアルした!」「超レア!」などと話題になり、多くの売店では連日完売になった。その余波は本来のシウマイ弁当が復活した後もしばらく続いた。

1週間限定のシウマイ弁当
画像提供=崎陽軒
1週間限定で販売されたシウマイ弁当。「鮪の漬け焼」が「鮭の塩焼き」に変わった。

「非常に珍しいことだからここまで盛り上がったのでしょう。『鮭の塩焼きもおいしかった』というお客さまもいました。ただ、やりたくてやっていることではなく、本当に申し訳ないという気持ちです」

崎陽軒の野並晃社長はこう述べる。5月25日に40歳で社長就任したばかりで、いきなり重大な決断を迫られた。前社長の野並直文会長に言わせると、現在のシウマイ弁当は「完成形」。中身のラインアップは約20年間ほぼ変わっていない。それをいじるのは勇気のいることだったのではないか。

だが、「仕方のないこと。その時、その時で最善の判断を下すのみです」と野並社長はクールに話す。

昨秋から綱渡り状態だった

実は、マグロの調達については昨秋から陰りが見えていた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、サプライチェーンが支障をきたしており、ずっと綱渡り状態だったという。