一般社会から切り離された“テーマパーク”は、楽園なのか

De Hogeweykの敷地にある住まいは27戸で、6~7人がひとつの住居に住む。似ている価値観の人同士が生活をともにできる仕組みがあり、①URBAN(都会的)②TRADITIONAL(伝統的)③FORMAL(形式的)、④COSMOPOLITAN(国際的)と異なるテーマに分かれていた(2022年6月取材時点)。利用者に人気があるのはTRADITIONALとのことだった。

オランダのホグウェイの4タイプの住居。
オランダのDe Hogeweykの4タイプの住居。(写真提供=The Hogeweyk/Be Advice

オランダで40年以上暮らし、現地の高齢者施設の事情にも詳しい識者にアルツハイマー村についての意見を求めたところ、一言「テーマパークです」という答えが返ってきて、合点がいった。取材時、担当者が「環境づくりのためにはディテールが大切」と話していたが、たしかに独立した娯楽施設のような印象を受けた。

多くのボランティアが関わり、近隣の住民が敷地内のカフェを利用しているが、「村」は一般社会から切り離された囲われたスペースだ。

広大な敷地で自由に散歩ができ、スーパーに行っても白い目で見られない「アルツハイマー村」は、果たして認知症の人にとっての「楽園」なのだろうか――。

その疑問を自分の目で確かめるためにフランスとオランダへ渡り、あらためて「私が認知症になったらここで暮らしたいだろうか」と自問したが答えに窮した。

その理由は「ケアする側」と「される側」の2つのカテゴリーに分類された人しか存在しない違和感があったからだ。フランスのアルツハイマー村ではボランティア、心理学者、インストラクターなども存在するが、彼らはケアする側のカテゴリーに含まれる。

日本でも介護施設や認知症対応型共同生活介護(グループホーム)にはケアする側とされる側のおもに2者しか存在しないが、アルツハイマー村の場合、広すぎる敷地が「その他」の人がいない余白と違和感を際立たせているように思えた。認知症になっても社会と適度に関わりながら暮らしを続けたい――。

そのような希望をもつ人をサポートする組織があるという情報を得た。

接し方の訓練を受けた地域住民

オランダ南西部にある「Tante Louise」は14の介護施設、ホスピス、リハビリテーションセンターを有する組織だ。利用者には「できる限り自分のことは自分で行う」「地域生活に参加する」「必要な支援を受けながら自宅で暮らし、それが無理ならホームに移る」というスタンスを基本にしている。

同組織が運営する「Verpleeghuis Hof van Nassau」は、認知症の人が暮らす介護施設だ。この施設では、認知症の人の選択の自由が奨励され、「歩け歩け」「外に出ていこう」というポリシーを実践している。フロアには転倒防止のセンサーなど、テクノロジーが多く使われている。施設の周辺に住む地域の住民も、認知症の人と話す際には荒い言葉は使わないなど、接し方の訓練を受けた多くのボランティアがいる。