入居者の倍のスタッフがいる村
日本と同様、欧州においても認知症の人のケアは喫緊の課題であり、さまざまな取り組みがなされている。筆者が訪れたフランスとオランダの例を紹介したい。
現在、フランスの認知症患者は約120万人、オランダの認知症患者は約27万人に上るといわれている。
フランス南西部のダクス(DAX)にある「Village Landais Alzheimer(ランド・アルツハイマー村)」。
2018年に建設が開始されたこの「村」は、16戸の家で構成され、現在120人のアルツハイマーの人が生活する。うち10名は60歳未満で、認知症だと診断されていることが入居の条件だ。ケアをするスタッフは120名(医療職、介護職、コメディカルなど)で、同じく120名ほどのボランティアがいる。5へクタール以上の広大な土地には、美容室、雑貨屋や食品などを扱う店舗、食堂、図書館、ホールなどがある。
筆者が訪問した日にはホールでイベントが行われており、利用者とケアスタッフが談笑していたのが印象的だった。
小さな農園もあり、別のエリアではロバが放し飼いにされていた。
さらに、ここでは認知症の人を対象とした研究がなされており、移動能力、運動性をはじめ、新技術の導入効果、例えばレーザー光を用いた転倒・転落検出装置、磁気システムを用いたドア開閉センサーなどテクノロジーに関する研究も進められている。
国(保健省)から財政支援を受けており、自治体や非営利団体などにより設立された公益団体が管理を行っている。
取材時には見受けられなかったが、地域の住民にはオープンデーやガイドツアーを行い、参加や支持を呼び掛けてきたという。
「音楽を聞かせる」のではなく「聞きに行く」
この「ランド・アルツハイマー村」のモデルとなったのが、オランダにある「De Hogeweyk(現地では「デ ホーヘワイ」と発音)」だ。各国のメディアでとりあげられ、日本でも介護・福祉の関係者の間では知られている施設だ。
De Hogeweykはオランダの首都から車で20分ほどの場所に位置する。オランダの企業、viviumケアグループが運営し、24時間のケアが必要な認知症の人が最期まで過ごせる場になっている。1.5ヘクタールの敷地を歩くと噴水広場やカフェ、スーパーマーケット、映画館、ミュージックルームなどがある。
スタッフはケアの研修を受けており、利用者を認知症の人としてケアするのではなく、「その人」の生活をみているのが特徴だ。
スタッフが利用者とミュージックルームに行く際には「音楽を聞かせる」のではなく「聞きに行く」という姿勢で接する。「~しなさい」と命令するのではなく、利用者の行動にスタッフが合わせるよう努めているという。
「『敷地内にある噴水に利用者が入ってしまうのではないか』と心配するあまり鍵がかかっている部屋に閉じ込めると利用者の不満がたまってしまう。不満の原因はケアするスタッフがつくっているのです」と取材に応じてくれた担当者は話していた。