現金は持っているだけで価値が下がる

それではなぜ、トルコで株価がこれほど顕著に上昇したのか。

よく指摘される理由として、トルコ国内の投資家が、インフレヘッジの観点から株を積極的に購入していることがある。年率80%以上のペースで物価が上昇する環境の下では、現預金の価値は日に日に落ちていく。であるなら、インフレ耐性が強い株式に投資したほうが合理的な判断だ。

さらにトルコがかなり緩和的な金融環境であるという点も見逃せない。トルコの政策金利は9月末時点で12%だが、同月の消費者物価は前年比83.5%だったため、実質金利の水準は▲70%近くになる。

加えてトルコでは、政府の規制を受けて、長期金利も低下している。こうした緩和的な金融環境はもちろん、株価にとって追い風となる。

それに途上国の場合、国内の投資機会が乏しいため、米ドルなどの外貨に投資することも資産防衛の有力な選択肢だ。とはいえ、特に機関投資家の場合、相次ぐ利上げで米ドルやユーロの調達コストの増大という問題に直面、外貨投資が難しくなっている。

そのためトルコの投資家は、消去法的に国内の株式で資産運用に努めている側面もあるのだろう。

以上のことから、世界と逆行するトルコの株高が生まれたと整理される。つまりトルコの株高は、通貨安を軽視し、低金利と高インフレを常態化させるという、通常ならあり得ない経済状況の帰結として生じたものである。

こうした状態がいつまで続くかは疑問があり、いずれトルコの株価は急ピッチで下落するかもしれない。

右肩上がりの株式チャートをノートパソコンで閲覧中
写真=iStock.com/cihatatceken
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緩やかに進行している通貨危機の帰結

海外投資家のトルコ株に対する判断も慎重なようだ。ブルームバーグは8月25日付の報道で、堅調なトルコ株を受けて、8月19日週に外国人投資家による3億6620万ドルのトルコ株の買い越しがあったと好意的に評価した。

しかし中銀のデータによれば、翌8月26週には3200万ドルの売り越しに転じ、以降も売り越し超過が続き、8月19日週の買い越し分はほぼ失われた。

株価は通常、景気の先行指標とされる。今年に入り、世界の株価は米国の利上げが進んだことで下落したが、これは来年以降に世界景気の悪化が本格化することを織り込んだ動きだ。とはいえ、世界のトレンドと正反対であるトルコの堅調な株価が、トルコの景気が来年以降、急速に回復する展開を織り込んだものだとはとても解釈できない。

むしろトルコの株高は、変動相場制下で生じた通貨危機の帰結といえよう。