森ビルと吉野家で資本装備率に40倍の差

一方で資本装備率は非常に分散度が大きいと言えます。

例えば、資本装備率の高い業界の典型としてはディベロッパー(三菱地所、森ビルなど開発業者)が挙げられます。彼らは大量の借り入れを行って用地を取得し、そこにオフィスビル・レジデンスなどの建物を建築。そしてそれを貸し出すことで収益を獲得しているため、業績を向上させるためには資産規模の拡大は避けては通れません。

そのため、従業員1人当たりの資産額(=資本装備率)は高まる傾向にあります。森ビルであれば年間収益が約2500億円であるのに対して、資産規模(資産総額)は約2兆円、従業員数1600人なので資本装備率は約12.5億円/人です。

一方で資本装備率の低い業界の典型として外食産業(吉野家HDなど)が挙げられます。

彼らは原材料を一括で仕入れて工場で加工したのち、店舗に輸送しますが、店舗は主に賃借で賄っており、従業員が店舗で調理を行って飲食物を提供しています。

つまり加工工場や調理器具以外にこれといった資産は持たないビジネスで、業績を向上させるにあたって、資産規模の拡大は必要としません。

そのため、資本装備率は低位に留まっています。吉野家HDは年間収益が約2000億円であるのに対して、資産規模は約1000億円、従業員数3000人なので資本装備率は3300万円/人です。

ここで注目してもらいたいのが、両企業がいずれも各業界において日本を代表する企業でありながら、その資本装備率に40倍もの差が生じている点です。

ここまでで、給与を決定する要因として資本装備率がいかに大きな影響力を有しているかがおわかりいただけたのではないでしょうか。

また、資本装備率は個社要因というよりも業界要因によって決定されます。ディベロッパーや商社の資本装備率は高く、外食産業や小売業の資本装備率は低く、同業界内の企業間での差異は無視してよいレベルと言えるでしょう。

つまり、あなたの給与はあなたが仕事でどれだけの実績を上げたかよりも、あなたがどの業界に勤めているかによって決まっているのです。

流動性が高いということそれ自体に価値がある

キャリア形成においては、業界のほか何を意識すると投資効果が高まるでしょうか。

以前、とある上場企業のCFOの方とお話しする機会がありました。私が「××さんの仕事で追いかけている重要な指標はなんですか?」という質問をぶつけてみたところ、予想していなかった答えが返ってきました。その方が最も重視している指標は「自社株式の日々の取引高」だというのです。

××さんはその理由として次のものを挙げていました。

好業績を達成するのは当然として、最終的には投資家が株式を購入してくれないと株価は上がらない。

数千億円以上の時価総額になってくると、機関投資家(年金基金やアセットマネジメント会社)を買い手に招き入れないとアップサイドは望みづらい。

野原秀介『投資思考』(実業之日本社)
野原秀介『投資思考』(実業之日本社)

そういった投資家の投資単位は億円である。

彼らがポジションを構築するためには、市場に株価影響を出さずにポジションを解消できることが必要(本書1章を参照)。

最低5億、10億円単位の売買高がない株価はそもそも投資対象にならない。

以上の観点からわかるのは“流動性”という概念の重要性です。つまり流動性とは、売り手・買い手の多寡、売買のしやすさであり、上記の小話からは、流動性が高いということそれ自体に価値があると言えます。

東京・晴海の空撮写真
写真=iStock.com/kurosuke
※写真はイメージです

実際に投資に携わっていたり、金融業界で働いたりしないとこの概念自体を知らないままでいることがほとんどですが、実はこの流動性が我々の日常生活にも大きく影響を与えています。