宿泊料金は「国際相場」へ引き上げるべき
「皆さん(解禁の)情報を得るのが早く、外国の方からの予約が次々に入っています」と奈良の老舗旅館「古都の宿 むさし野」の北芝美千代さんは目を丸くする。若草山の麓にあり、門前には鹿が遊ぶ風情豊かな純和風旅館は、外国人に人気で、新型コロナ前は連日満室続きだった。外国人客向けに、女将の山下育代さんとお茶やお花の手ほどきをするなどアットホームなサービスも好評を博していた。それだけに、日本再訪を待ち構えていた外国人客は多いのだろう。奈良や京都だけでなく、日本各地の紅葉の名所は3年ぶりに外国人観光客で溢れるに違いない。
為替レートで言えば、この3年の間に2割以上の円安になっている。つまり、日本円建ての価格が一緒ならば2割引ということだ。しかもこの間に世界の物価は大きく上昇しているから、割安感が高まっている。
そこで重要になるのが料金の「国際相場」への引き上げだ。外国人旅行者が激増したとして、「安さ」を目当てにした「バックパッカー」ばかりが集まるようになっては、インバウンド消費に結びつかない。
財布に余裕のある旅行者だけを受け入れるブータン
ヒマラヤの王国ブータンは9月から外国人旅行者の受け入れを正式再開するとともに、滞在日数に応じて課す「観光税」を従来の3倍に当たる1日1人あたり200ドルに引き上げた。もともとブータンは、バックパッカーの多い隣国ネパールと対照的に、旅行費用を意図的に高く設定して財布に余裕のある旅行者だけを受け入れる政策をとってきた。今回の大幅引き上げはそれをさらに進めて、富裕層の割合を大きく増やそうと狙っているものと見られる。「量よりも質」の観光政策というわけだ。
日本も、放っておいても激増すると見られる外国人旅行者に、日本国内でお金を使ってもらう方策を考えていくことが重要になる。
「価格勝負」ではなく「品質勝負」の観光に方向転換していくのだ。価格を国際相場に近づけていくことで、増える収益を積極的に従業員の給与引き上げに回し、さらにサービスの高度化を進めていくべきだ。
旅館やホテルなどの宿泊業は、運輸や外食、小売りなどと並んで生産性の低い産業と言われてきた。従業員の給与水準も低く抑えられてきた。「安くて良いもの」という長年日本に根付いた考え方のしわ寄せが「低賃金」に結びついてきた。