長引く円安は、日本人を貧しくさせてしまう
実際、これは2013年以降の「アベノミクス」でも問題視されていた。金融緩和に伴う円高是正で輸出企業を中心に業績は大きく改善したものの、賃金はほとんど上昇しなかった。安倍晋三首相(当時)が「経済好循環」を掲げ、賃上げを求めても実現しなかったのである。
足元でこれだけ円安になっていても製造業に追い風は吹かない。10月3日に日銀が発表した全国企業短期経済観測調査(日銀短観)でも、大企業製造業の業況判断(DI)は3期連続で悪化。日本経済新聞は「かつて円安は日本経済の追い風だったが、構造変化で恩恵が広がりにくくなっている」と指摘していた。
では、長引く円安をプラスに変える方法はないのだろうか。
一部には日本国内に製造拠点を戻して、円安を利用して輸出を増やそうとする動きもある。円安が進めば国際的な価格競争に勝てる、というわけだ。
だが、これはもう一度「貧しい日本」に戻ることになりかねない。先進国に比べ安くて豊富な労働力を持っていた日本が、安くて品質の良いものを大量に製造して輸出していた50年前の高度経済成長期の日本である。
今の円安水準を物価の推移などを考慮した「実質実効為替レート」で見ると、50年前と変わらない円安水準に戻っている。それだけ日本人の国際的な購買力は落ち、「貧しく」なっているのだ。
「日本への旅行客」を増やすことが第一
だが、当時と違い、今の日本は少子化で若年層の人口が減っている。人件費は国際的にみて「安価」になっているが、かといって若年層の「豊富な」余剰人材がいるわけではない。価格競争で勝って輸出を増やすという「発展途上国型モデル」に戻ることはできないし、それをやれば賃金は上がらず、日本経済を支えている国内消費はさらに悪化していくことになる。
ではどうするか。可能性があるのは「インバウンド消費」だろう。円安で日本への旅行が猛烈に「割安」になっている。これを活かすことが第一だろう。
新型コロナウイルス対策を重視するあまり、日本は実質的に「鎖国状態」を続けてきたが、ようやくその大幅緩和に踏み切った。10月11日からは、現在1日5万人の入国者数の上限を撤廃、外国人観光客の個人旅行を解禁するほか、ビザ免除も再開する。
新型コロナで旅行が制約されていた反動で、世界では旅行ブームが起きている。ウクライナ戦争の影響で欧州地域への旅行が忌避されていることもあり、「日本」への人気が集中しつつある。しかも円安で滞在費は世界各国に比して格段に安い。