人間には「ハイブリッドエンジン」が備わっている

そのことを説明するとき、著者はハイブリッドエンジンを引き合いに出すことが多いので、ここでもその方法で話したいと思います。

近年、人気のハイブリッドカーには2つの動力源があります。一つは、ガソリンを燃焼させる内燃機関のエンジン、もう一つは、バッテリーを使った電動モーターです。動き始めるときは電動モーターを使い、巡行に入るとほとんどガソリンエンジンを使い、追い抜くようなときはさらに電動モーターも使う、というように使い分けているのです。

田畑泉『1日4分 世界標準の科学的トレーニング 今日から始める「タバタトレーニング」』(ブルーバックス)
田畑泉『1日4分 世界標準の科学的トレーニング 今日から始める「タバタトレーニング」』(ブルーバックス)

実は、人間の体にもハイブリッドエンジンがあります。ハイブリッドカーのガソリンエンジンに当たるのが有酸素性エネルギー供給機構で、もう一つの電動モーターが無酸素性エネルギー供給機構です。人間もこれらをハイブリッドカーと同様に使い分けていて、ジョギングをする際、走り始めるときには無酸素性エネルギーを、ほぼ同じスピードで走り続けているときには有酸素性エネルギーを、誰かを追い抜こうとしてスピードを上げるときには無酸素性エネルギーを使います。

スポーツの種類にもよりますが、同様の競技は数多くあります。例えば、サッカーを見てみると、試合の中で9割はジョギング程度の軽い動きをしていて、残りの1割程度はダッシュのような激しい動きなので、どちらのエネルギーも使っていることがわかります。

ただ、一般的なトレーニングは、どちらかというと有酸素性エンジンを強くする持久系のトレーニングか、あるいは、無酸素性エンジンを強くするパワー系のトレーニングに分かれています。そのため、それぞれのエンジンを鍛えるためには、両方のトレーニングを行わなくてはいけないのです。

タバタトレーニングは「究極の有酸素性トレーニングである」

タバタトレーニングは、10秒の休息を挟みながら20秒の高強度運動を6~8回繰り返す運動ですが、酸素摂取量を測定すると、最初のうちは少ないことがわかります。しかし、8回目ともなると、酸素摂取量がほぼ最大酸素摂取量に達するのです。

ということは、有酸素性エンジンに最大酸素摂取量の100%の負荷をかけているということになり、「究極の有酸素性トレーニングである」といえます。有酸素性エンジンを100%使い切ったことで、体はそのことに反応して心臓や筋肉に働きかけ、エンジンをもっと強くしようとする、つまり持久力などの向上につながるのです。

運動開始直後に使用される無酸素性エネルギー

有酸素性エネルギー供給は酸素摂取量を測定することで定量化できますが、無酸素性エネルギーは筋肉の中で産生されるので、測定するには筋肉組織の一部を採取しなければなりません。たとえそれを行ったとしても、筋肉全体を取り出しているわけではないので、実質的に全体量を測るのは不可能です。そこで用いられるのが「酸素借」という概念を使った測定法です。

同じ強度の運動を続ける場合、必要なエネルギー量は運動開始直後も、しばらく経ってからでも同じです。しかし、先ほども述べたように、運動を開始した直後は酸素摂取量が少なく、その後、徐々に増加していくことがわかっています。つまり、運動開始直後は需要に対して酸素摂取量が足りず、不足分をどこからか補わなければいけません。そのときに供給されるのが、酸素を必要としない無酸素性エネルギーです。

この運動開始直後の酸素需要量と酸素摂取量の差を「酸素借」と呼び、その値が無酸素性エネルギー供給量と考えることができます。ハイブリッドカーと同じようなエネルギー供給システムなのです。

究極の無酸素性トレーニングでもある

この酸素借の考え方を利用して、20秒の運動を8回繰り返すタバタトレーニングの酸素借を算出してみました。すると、合計の総酸素借は、その人が持っている無酸素性エネルギー供給量の最大値である「最大酸素借」と同じであることがわかったのです。

ということは、無酸素性エネルギー供給機構に最大の負荷をかけているので、無酸素性トレーニングとしても最大の効果が得られるということであり、タバタトレーニングは「究極の無酸素性トレーニングである」といえます。

これまでも、高強度・短時間・間欠的トレーニングが有酸素性エネルギー供給量を最高に高めることは認知されていましたが、無酸素性エネルギー供給については明らかになっていませんでした。しかし、科学的な分析により、「20秒運動+10秒休息」を繰り返すタバタトレーニングは、有酸素性および無酸素性エネルギー供給能力のどちらも最大に強化できることが判明したのです。

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