年金の少なさに不安を抱えている人が多い

月5万円弱のお金ではやっていけるはずがない。その上貯金なんてできるわけがない、こう思われるかもしれません。私もそう思っていました。本を開いてもネットを開いても多くの識者が「老後の生活費は夫婦で最低でも20万円は必要」と述べています。

「今50代ですが、もらえる年金が少なく、ものすごく不安です」

私のブログが雑誌に掲載されたとき、多くの人からこんな切実な声が寄せられました。今の50代の人のなかには加入期間が40年に満たない人が多くいるそうです。大学を卒業して20代で専業主婦になった人には未払いのままの人がいるからです。以前はサラリーマン世帯の専業主婦や学生には国民保険の加入が義務となっていなかったためということです(1991年から国民年金は20歳以上は義務で強制加入となった)。その後離婚したり死別したりして毎日の暮らしに忙しく保険料を払うどころではなく何年も過ごしてきた人もいるかもしれません。

一般的には老後はどのくらいあれば暮らしていけるのでしょうか。

総務省統計局の2021年の調査によると、65歳以上・無職単身世帯の月の収支は、収入が13万5345円(うち社会保障給付〈年金〉12万470円)、支出は消費支出が13万2476円、税金・社会保険料が1万2271円で、収支としては9402円の赤字となっています(総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2021年 平均結果の概要」)。

基礎年金だけしか払っていない私のような自営業者は、(20歳から60歳までの)40年間全期間の保険料を払い続けた人で満額78万900円(2021年)。月額6万5075円です。

厚生年金を受けている人に比べると一人約5万5千円少ない。数字を見ると、確かに不安になります(※2022年4月より月額6万4816円に減額)

それぞれの事情は違うものの、自営業者の方でいま50代の人の切実な訴えが多かったのはそのせいかもしれません。

自営業者は収入に波があるので、収入のなかった月や年には1万円(1990年には月額8400円、1993年1万500円、2018年1万6340円、2022年1万6590円)の年金を払うのさえきついことがあります。私自身、子育てと家賃などの支払いに追われ、年金を滞納したことが何度もありました。玄関のチャイムが鳴るので出たところ、「年金の支払いをお願いします」とインターフォン越しに大きな声で言われたこともあり、恥ずかしい思いをしたものです。

「平均」に捉われるのはやめよう

それはともかく、私自身、そんな「一般的な数字」を知っていたら不安になったのは間違いありません。

「一般的」「平均」――。

それ以下の年金額では「下流老人」などと呼ばれ、こんな少ない額では老後破綻を起こす、起こしている、「平穏で健康的な生活はできない」と言われているようです。実際どんな雑誌や本を眺めても、この平均受給額を最低としていて、それ以下の自営業者の年金額を対象にしたプランはなかなか見当たりません。

この先、経済の停滞や少子化の影響もあり、少ない年金しか受け取れない人々の不安が大きくなるのも無理はありません。こういった「平均」の数字がどれほど人に恐れと不安を与えるものかがよくわかります。

筆者の紫苑さん
撮影=林ひろし
筆者の紫苑さん

年金に限ったことではなく、この「平均」の数字や言葉に、私は長い間惑わされてきました。生活費だけではなく、教育費、生命保険額……。

でも平均はあくまで平均です。平均よりはるかに低い額でも私は「健全」に楽しく毎日を過ごしてきました。

そのためにはいくつかのコツと工夫が必要ですが、それは決して難しいことでも我慢を強いられることでもなく、やり始めると楽しいものです。年金減額など政府への不信は当然として、実際的な生活では与えられた環境の中で最善を尽くすしかありません。

「節約」のために四苦八苦しないので、食生活だけではなく、衣食住、生活のためのすべての場所で日々いろんな発見があったのです。