主張の強い特番から「降りた」スポンサー

番組を見るとき、広告業界の人間はCM枠がどのスポンサーに売れたかを意識するのだという。昔なら特番に空き枠が生じるなんてことは起こらなかったが、テレビ離れの昨今はちょくちょくある。それに今回の国葬は評判が悪いので、レギュラー番組なら普段いるはずのスポンサーが降りていることが考えられるのだ。

CMの枠は、タイム(提供)とスポットに分かれる。提供スポンサーは、番組途中の提供画面にロゴが出ているもので、人間の声で読み上げられる色付き、読み上げられる白黒、ロゴのみの順番で払っている金額が大きい。

ところがスポット買いのCMというのもあって、例えば平日昼間を条件に買っているだけのスポット買いが、タイム枠が余っていると空き枠埋めとして流れることがある。その場合は、たまたま特番に流れているだけなので、スポンサーとは言えない。

10月からの自局の番宣が長尺で何度も流れたりすれば、スポットCMで懸命に埋めてもなお「枠を余らせた」ということ。ましてACが流れたりしようものなら、広告業界人は一瞬で察するのだそうだ。どこかの企業が、企業イメージの担保のためにスポンサー代は払ったままでCMは流さないと局に伝え、仕方なく素材をACに切り替えた」ということを。

果たして録画をチェックしたフジ全力の「安倍晋三元首相『国葬』」(第2部)は、広告代理店視点で懸念された全てがそこに現れていた。ジャパネットの1社提供に、いなば「CIAOちゅ~る」や小林製薬などの「ざっくり昼間に流してねと枠を買っていたのでたまたま流れることになった」遊軍スポットCM、頻繁な自局番宣、ACも流れ、いつもならその時間は「ポップUP!」にいるはずのタイム枠スポンサーであるLION、再春館製薬所やメナード化粧品、そして昼間遊軍CMの常連である花王、P&G、ミツカンなどの一般消費財企業は一切の姿を消していた。

異彩を放ったフジの特番

いつもいるはずのスポンサーたちが見当たらないフジの国葬特番は、他の民放局の画面作りからは明らかに異彩を放っていた。喪主である安倍昭恵さんが「ご遺骨」を抱えて乗り込んだ車が富ヶ谷を出発するところから「ニュース的」という以上の感情が漂ってくる空撮、葬儀委員長である岸田首相が出迎えるまでのまったりとした時間も、そのまま中継で流した。

陸海空の自衛隊や防衛大・医大生に儀仗ぎじょう隊、音楽隊など1200人がずらり並ぶ様子はあえて美的な角度で圧倒的な印象を持つように撮られ、カメラは19発の弔砲を撃つ自衛隊員のしぐさや大砲も子細に見えるほどに寄り、エモーショナルなBGMすらかすかに流れた。画面には、武道館中心に下がる大きな日本国旗や、式壇中央の安倍元首相の遺影が何度も大写しになり、式壇に飾られた勲章の数々にも丁寧な説明が加えられた。