積雪が30センチを超えると屋根からの転落事故が急増する

世界有数の豪雪地帯である日本では、むろん雪による死亡事故も多く、年によっては100人以上が命を落とすことがある。犠牲者の7割は65歳以上の高齢者で、死亡事故の主な原因は、落雪や雪下ろしによる転落、さらに除雪の際の水分補給不足に伴う心筋梗塞や脳梗塞などだそうである。

積雪が30センチを超えると、屋根からの転落事故が急増するという研究もあるから、リスクを考えれば雪下ろしはしない方がいいのだろうが、そうはいかない大事な理由がある。それは屋根の雪が想像以上に重いことである。ちなみにアメリカでは雪下ろしや除雪作業で年間100人が死亡するという統計があるのだが、雪などの悪天候による自動車事故の死者数はそれを遥かに上回る800人である。

温暖化により、深い雪に埋もれたときの生存率が下がる

雪はどれほど重いのだろうか。湿った雪は粉雪よりも6倍以上重いという。同じ1立方メートル当たりの重さで比べると、たくさん空気を含んだ粉雪は50キロ程度なのに対し、多量の水を含んだ湿り雪は300キロにも達する。

森さやか『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)
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だから、もし100平米の屋根の上に均一に雪が2メートル降り積もったとしたら、重さは60トンに及ぶことになる。60トンはどれほど重いかと言えば、元横綱・白鵬だと約390人分、恐竜ティラノサウルスだと約10頭分に相当する。屋根からの転落と同様に恐ろしいのが落雪で、それによる死者数は、雪の死亡事故全体の13%にも上るという。

ある統計では、1〜2メートルの雪に埋没した場合、25%の人が即死するというが、温暖化によって生存率がさらに低くなるかもしれないそうである。というのも、気温が上がって湿り雪になれば重くなるし、また雪の上に頻繁に雨が降ることで、雪の層が重くなるから、閉じ込められたら逃げづらくなるのである。

だから重かろうが、危険だろうが、誰かが雪かきをしなければならない。悲しき雪国の宿命である。そんな雪かきに文章を綴る苦労を重ね合わせた村上春樹氏は、書くことを「文化的雪かき」と表現した。物書きには人知れない苦悩と、社会的使命感があるのだろう。そういえば、国土の大半が雪に覆われたアイスランドは、10人に1人が生涯に1冊本を出版するそうで、世界でもっとも出版率が高いと聞いた。雪国は裕福なだけでなく、文化的にも豊かな国なのかもしれない。

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