鈴木流の話し方、すなわち、自分の知っていることを平易な言葉で話す、相手の知りたい欲求を引き出す、例え話を効果的に使う、自分なりの情報を持つ……等々の方法は、相手の頭の中に同じテンプレートをつくるための話し方の工夫にほかならない。
アジフライや牛肉の例を使うのも、「衝動買いの心理」についてのテンプレートを相手と一致させるためだ。セブン-イレブン創業期、製パンメーカーと交渉を重ねたのも、「正月も新鮮なパンを売ること」のテンプレートを共有するためだった。ただ、交渉が難航したように、「伝える」と「わかる」を一致させるのは必ずしも容易とは限らない。
「相手が自覚していないときに納得させ、行動を起こさせるための基本は、一度や二度うまくいかなくてもあきらめずに伝え続けること。もちろん、同じ話を繰り返すだけでは相手も聞くのに疲れるだけでしょう。伝え方のどこが弱かったのか検証し、次につなげる。相手が納得できない理由がわかれば、論法を変えてみる。同じ条件でも表現の仕方を変えてみることも必要でしょう。自分の考えをブレさせることなく、相手が動くまで伝え続ければ、必ず伝わる。伝え方の基本はいかにIT(情報技術)化が進もうと変わらず、同じなのです」
※すべて雑誌掲載当時
(石井雄司、尾関裕士=撮影)