遅きに失した放送行政の歴史的大転換

デジタル時代の放送を見据えて、民放をめぐる放送政策が大きく変わりそうだ。

総務省は、地上放送のローカル局の救済を念頭に、民放界を規制してきた「マスメディア集中排除原則(マス排)」(一事業者による複数の放送局の経営を禁じている原則)など根幹のルールを大幅に緩和する方針を固めた。すでに放送法や省令の改正に着手、来春にも順次施行する見通しだ。

沢山のテレビ
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ネットが社会インフラとして定着しソーシャルメディアやスマートフォンの浸透で急速に「テレビ離れ」が進み、それに伴ってテレビの広告市場はどんどん縮小している。このため、広告収入に依存する民放界の経営が暗転する懸念が強まり、数年以内に債務超過に陥るローカル局が出かねないとの見立ても現実味を帯びてきた。

民放界を取り巻く環境が激変する中で打ち出された政策転換だが、遅きに失した感は否めず、苦境に立つ経営規模の小さいローカル局が立ち行くかどうかは予断を許さない。

ローカル局の整理・再編が進むようなら、多様な地域情報の発信が危うくなり、視聴者のテレビライフにも影響が及ぶ。民放各局は総じてネット対応が遅れており、若年層を中心にテレビとの距離は広がるばかり。「テレビ離れ」は加速しそうで、民放界の危機感は深い。

公共放送NHKと多数の民放が共存する世界でも稀有けうな「公民二元体制」を基盤としてきた日本の放送政策は、歴史的転換点を迎えることになりそうだ。

全国にひしめく民放127局のいびつな構図

放送界の勢力図は、NHKと民放、さらに民放はキー局・準キー局とローカル局という二重構造になっている。

受信料を安定財源とするNHKに対し、民放は景気などに左右されやすい広告収入が中心で、って立つ財務基盤がまったく異なる。にもかかわらず、両者が放送の両輪として併存してきたのが「公民二元体制」という日本特有の形態だ。