東京都区部の公立中学校制服一式の価格は、男子用が3万5563円、女子用が3万4295円(2022年3月、総務省統計局)。17年に公正取引委員会が公表した「公立中学校における制服の取引実態に関する調査」で、学校が制服を指定する大きな理由の一つとして「生徒や保護者の経済的負担を軽減する」ことが挙げられた。しかし、成長期に制服を買い替える可能性を考えると、家計負担の低減につながるかは疑問符がつく。それに対する試みとして今春、さいたま市立大宮北高校は安価なユニクロの商品を新たに制服に加えた。「生徒、保護者の負担を減らして、選択の幅を広げてあげたい」という趣旨だった。ところが、いざ新入生を迎えると、想定外の事態が起こった。一部の生徒の制服購入費が安くなるどころか、逆に上がったのだ。
「約4分の1の生徒が、従来の制服とユニクロ制服の両方を購入しました。特に女子生徒の場合は約7割がそうでした。制服購入費が逆に高くなってしまったと思うと、申し訳ない気持ちになりました」
さいたま市立大宮北高校の筒井賢司教頭は、今春の入学時をそう振り返る。
新1年生は旧制服とユニクロ制服を自由に選択できる。制服一式の価格は旧制服が約5万円なのに対して、ユニクロ制服は約1万2000円。後者を選択すれば、制服代を大幅に抑えられる。ところが、半数を超える女子生徒はユニクロ制服とともに旧制服を購入した。
なぜなのか?
「自分だけが目立つ服装はしたくない、突出してしまうことに対する不安がすごく大きかったと思います。それで、ユニクロ制服はいいけれど、心配だから旧制服も買って、まわりを見ながら着よう、となったようです」
筒井さんの話を聞くと、子どもの新しい学校生活での心配を少しでも減らしてあげたい、そんな保護者の親心を感じる。
教室内が色とりどりに
「取材は生徒たちが落ち着いたころにいかがですか」と、筒井さんから提案され、筆者が同校を訪れたのは9月のとある土曜日だった。この日、午前は公開授業、午後は受験生と保護者向けに学校説明会が開かれた。
筒井さんに案内され、まず1年生のクラスを訪れると、目に飛び込んできたのは色とりどりのポロシャツ姿で授業を受ける生徒たちの姿だった。