「フリーは古い。いまやマイナスの時代だ」と語るのは、旅館・ホテルの会員制アウトレットサイト「トクー!トラベル」を運営するクーコムの西村惠治社長。通常の宿泊料金から最大99%もの大幅割引を売り物にしてきたが、2009年1月から抽選で各宿泊施設で2名分の宿泊料金をタダにしたうえに、利用した会員に109円プレゼントする「マイナストクー!市」を開始したのだ。
同サイトと他の旅行サイトとの一番の違いは、提携先の旅館やホテルから仲介・広告料を一切とらず、空き部屋を“前代未聞の値段”で提供してもらうだけということ。同社の主な収益源は年間5250円などの会員からの会費。その会員数は2010年中に100万人突破がほぼ確実だ。
しかし、旅館・ホテルは持ち出しになるだけではないのか。この点について西村社長は、「仮に抽選に外れても、同じ旅館やホテルから提供されている50%オフなどの格安プランを見て『泊まってみようか』と考える会員が多くおり、その集客効果は予想以上に大きい」という。
千葉県南房総市にあるリゾートイン白浜は、10年2月からマイナストクー!市に延べ5回ほど空き部屋を一つずつ提供してきた。「2月当初にサイトから仲介された集客は14名だったが、この4月には140名以上になった。空き部屋のままだと人件費などの固定費が出ていくだけ。収益が大幅に改善している」と島元享支配人は話す。
「世界で初めてで面白そう」と西村社長が考えた新サービスは、会員、旅館・ホテル、クーコムという三者が同時にメリットを享受できるフリー版「三方よし」のビジネスモデルなのだ。
また、独自のフリービジネスを立ち上げ、グローバル市場に打って出たのがオーシャナイズである。同社は5人の大学生が05年11月に設立したベンチャー企業。大学の食堂などに無料のコピーサービス機「タダコピ」を設置し、学生に利用してもらう。ただし、コピー用紙の裏には広告が印刷されてあり、その広告料金が収益源になる。
「現在、全国の約60大学に約80台のタダコピが設置されており、多いところでは月に10万枚の利用がある。携帯電話など学生のニーズに絞った広告が打てるうえに、講義ノートのコピーだと試験まで捨てずに何度も見るため、宣伝効果が大きい」と菅澤聡社長は語る。標準的な広告料金は15万枚で270万円。ソフトバンクBB、ユニクロなど約450社が活用する。
いま菅澤社長が力を入れているのが「タダコピを世界中の大学に置くこと」。09年12月、中国の上海の17大学が集まった地区で中国版タダコピの「百宝書(バイバオシュ)」11台が稼働を開始。女子学生の利用が全体の9割を占め、化粧品などの広告出稿が相次ぐ。また10年9月から米国の7大学でもスタートする。
さらに09年9月から学生を会員化して、性別、学部などの属性に応じた広告を提供するターゲティング広告を日本国内の10大学で開始。属性別の広告を用紙トレイに予めセット、個々の会員情報に応じてトレイを自動選択する。最終的にはサーバーに広告データを入力し、リアルタイムで提供する考えだ。
※すべて雑誌掲載当時