井村雅代(シンクロ中国代表ヘッドコーチ)
シンクロナイズドスイミングの世界的な指導者のひとりである。1985年に「井村シンクロクラブ」を創設、数多くの競技者を育成してきた。78年からは日本代表コーチに就任し、シドニー五輪銀メダルの立花美哉、武田美保らの名選手をつくり、「日本シンクロの母」とも言われる。
4年前の北京五輪では中国代表のヘッドコーチとして、チームに同国初の銅メダルをもたらした。再び、中国代表を率いて、ロンドン五輪に挑む。日本代表のヘッドコーチ時代を含め、通算8度目の五輪。これまでメダルを逃したことはない。
GW。日本選手権兼ジャパンオープンの水泳会場にその名指導者がいた。61歳。相変わらず、存在感は圧倒的である。
記者たちがミックスゾーンで囲む。混迷する日本代表のデュエットのメンバー決定の遅れに触れると、「ありえない」とぴしゃり。「早く決断しないと。やっぱり戦いというのは迷ったら負けます」
いつだって選手たちを勝たせるために全身全霊を傾けてきた。独断と批判されようと、責任を持って決断する。実績と覚悟、自信があるからである。
中国のロンドン五輪のデュエットには、実績のある蒋姉妹ではなく、若手の黄雪辰と劉鴎で勝負をかけるつもりだ。なぜかといえば、ふたりが「丈夫で長持ちだから」と冗談口調で説明する。「パワーがあって、練習が徹底的にできる選手じゃなかったら、わたしが彼女たちをいい成績に導いてやることができないじゃないの」
中国の若手ペアは昨年の世界選手権で2位となった。さらに徹底的に練習して、五輪本番に新たな演技をぶつける。勢いを大事にし、世界をあっと驚かす作戦である。
まるでギャンブル。もちろん、練習や準備、計算のベースがあってのギャンブル。
「それが、わたしがやってきたやり方だから。今回はその戦い方がいいと信じている。こうと思ったらいくしかないでしょ」