自ら現場を見て自力で動ける分野が必要

日本独自の終身雇用を前提に進化してきた人事制度ですから、終身雇用制度の衰退に伴って、この「ジョブ・ローテーション」(人材育成計画に基づく戦略的異動)の維持は難しくなりつつあります。実際、こうした制度を廃止する企業も出てきています。

現代では業務に求められるスキルも高度化しています。専門性を身につけることは、その業務のためにも必要になるでしょう。

少なくともトップになる人材はスペシャリストである必要がある、と私は思っています。

確かに全体を見渡す視点やマネジメント能力、組織をまとめる力など、トップには一定のジェネラリストの能力が求められますが、同時に時代に即したイノベーションを起こしていくためには、これまでとは異なる発想力を持つスペシャリストの能力も欠かせなくなります。

社内の人材配置を知っているだけではなく、自ら現場を見て自らの力で動ける分野を一つは持つことが必要です。

丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新聞出版)
丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新聞出版)

私の場合、会社におけるキャリアでは、10年も穀物・大豆を中心とした食糧畑を歩んできたので、世界の穀物庫と言われる地域の中心地ともなるニューヨーク時代は、専門家に負けないくらいその分野の新しい情報を集め、取材しました。

そのうち食糧をテーマに新聞・雑誌に寄稿をしたり、講演をしたりして、帰国後は業界からさまざまな呼びかけを受けるようになりました。

これからは、専門性の高い技術や資格を持っているかいないかによって、従業員も二極分化するようになるでしょう。それは正規、非正規にかかわらず、です。

自分の得意とするものは何ですか。

何を目的に働いていますか。

そのことはコロナウイルスが私たちに与えた教訓として、各業界の人々も忘れないようにしたいものです。

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