原発事故への備えは万全といえるのか。東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授は「周辺自治体がつくっている避難計画は、実効性のあるものとはとても思えない。フクシマのような事故は起きないことを前提に原子力防災行政が進められている」と指摘する。ジャーナリスト・日野行介さんの著書『原発再稼働 葬り去られた過酷事故の教訓』(集英社新書)より、広瀬氏のインタビューを紹介しよう――。
沿岸発電所
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フクシマ後も変わらない原発行政の虚構

広瀬弘忠さんは災害時の住民心理の専門家で、フクシマ後は鹿児島県(九州電力川内原発)、静岡県(中部電力浜岡原発)、新潟県(東京電力柏崎刈羽原発)で住民へのアンケート調査を実施。原発避難計画の虚構性を一貫して指摘している。

私の調査報道により、日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の30キロ圏内から避難する人を受け入れる避難所が過大に見積もられていたことが判明した。この調査報道では、1年間にわたって粘り強く伴走してもらい、専門的視点から貴重な助言をもらった。

今回の調査報道で取り上げた東海第二原発の避難計画を入り口に、フクシマの反省や教訓の形骸化から、数字やロジックの辻褄合わせに終始する役人たちの習性まで、フクシマ後も変わらない原発行政の虚構について語ってもらった。

全住民を受け入れる避難所の確保は「最低限」

——1年間にわたる伴走、ありがとうございました。

「今回の報道には本当に驚きました。これは原発避難計画をめぐる新たな指摘です。今までは避難経路とか高齢者や病院など、どう避難させるかの方法にだけ焦点が当てられてきました。だが、避難させた後はどうなっているのかと言えば、実は避難場所にスペースがなく、ロジスティックスも杜撰でめちゃくちゃな状態だった。

実効性の有無どころか、「絵に描いた餅」「机上の空論」でさえない、形ばかりで、中身のない実態を示した報道でしょう。分かりやすくて痛いところを突いている。しかも地道に証拠を積み重ねているから役所は逃げ隠れができない」

——それでも、避難所不足がバレると、役所の担当者たちは一様に「住民全員が逃げるわけではない」と開き直りました。

「確かに、これまでの住民アンケート調査を見ると、『避難しない』と答えた人も結構います。ただそういう人がいるからキャパ(避難所)が少なくてもいいのかというと、そうではない。福島第一原発事故みたいに、最終的にはいや応なく避難しなければならない事態になり得る。全住民を受け入れる避難所を確保しておくのは、行政として最低限の前提です。

さらに言えば、災害避難の現実ではキャパギリギリは機能しない。収容人数の90パーセントが埋まるような計画では100パーセントを超えているのと同じです。十分な余裕を持った計画でなければいけない」