また、テキサス医師会は今回の最高裁判決後の7月、同州内の病院事務や法規担当部門が「医師に妊娠合併症の治療をしないように働きかけている」というケースを公表した。
妊婦の命に関わる子宮外妊娠が破裂するまで何もしないで待機するように干渉された1例もあった。この場合、医師は中絶規制には違反しないだろうが、医療過誤で訴えられるリスクがある。八方ふさがりの状況に危機感を募らせているという。
また産婦人科医が処置に踏み切っても、麻酔科医や看護師などが「中絶の補助」をしたと疑われるのを恐れ、協力しなかったケースも報告されている。
母体と胎児が危険にさらされている
前出のアレイ医師の寄稿では、生まれても致死的な18トリソミーの胎児異常が発見された後、担当医が中絶のオプションがあることさえ妊婦に知らせなかった例も紹介している。
これから類推されることとして、胎児に致死的な障害がある場合でも、医師から中絶は全く言及されず、カウンセリングでは産後のケアなどに集中することになる。また、一絨毛膜一羊膜双胎の場合、臍帯相互巻絡による胎児突然死のリスクを管理する目的の減胎処置も考慮されるが、これも選択肢とはなり得ない。
肺高血圧症では、妊娠初期には母体が安定していても、血液量が増え妊娠進行とともに悪化することはよく分かっている。通常、避妊や早期の中絶による管理がされているが、この場合でも初期での中絶は認められず、母体の状態が実際に悪化する妊娠後期まで待たねばならないということになるであろう。
体外受精(IVF)では、体外で複数の受精卵を作成し、選別して子宮内に戻す。この際、戻さなかった余剰な胚は廃棄されることもあり、プロライフ派としては中絶に当てはまるため、規制の対象と考えられている。
仮にこの問題がクリアされても、IVFでは治療周期を合わせるために避妊する必要があり、流産率も高いため、経過に応じた流産処置も必須となる。このため、保守州では何ができて何ができないか、明確にしないとIVFなどの生殖補助医療の施行は難しい。
このように、今のところ曖昧だが医学的にもっと議論されなければならない生殖医療現場での問題は山積している。