子宮内容が排出しきれず出血が続く「不全流産」という状態では、痛みが継続するほか、感染や大量出血などの危険がある。よって治療目的で子宮内容除去術などの治療が考慮される。

しかし、子宮内容除去術の手術は中絶処置と同じであるため、医療従事者はこれを妊婦に施行すると人工中絶を疑われる恐れがある

医療従事者は刑事罰を科されるのを避けるため、確実に流産と言えるか、出血多量や感染など「母体の生命を脅かす状態」に当てはまるか、状況証拠が十分そろうまで待つことになる。

胎児が死亡して2週間以上放置された事例も

実際、テキサス州では2021年9月の中絶規制成立後、胎児が亡くなっているが排出が始まっていない「稽留けいりゅう流産」の状態で、全く症状がないから待機しろと指示され、胎児死亡の超音波診断後2週間以上待機させられたユーチューバーが話題になった。

また、テキサス州ダラスの病院の調査で、進行流産の状態の妊婦が平均9日間余分に待機をさせられ、その結果57%が重篤な感染症・大量出血などの合併症を抱えることになったことが分かった。敗血症の症状を呈していた妊婦もいたという。

医療従事者の萎縮は上記の事例にとどまらない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、6月24日の最高裁判決以降、保守的な一部の州で、処罰を恐れた病院や薬局が、稽留流産や進行流産の患者に薬(ミフェプリストン)の処方を断った複数の事例があった。

ミフェプリストンは、流産の際に子宮内容の排出を促す効果があり、経口中絶薬としても使われる薬だ。

処方や処置が受けられないと、全例で自然排出を待つことになる。だが、死亡した胎児を長期間そのままにしている精神的負担に加え、不全流産となり出血や痛みが続くことになる。うち20%程度の割合で薬物や手術が必要となり、対応が遅れるリスクは高く、医学的にベストな医療とは言えない。

処方を断る薬局、手術を拒む麻酔科医や看護師

全妊娠の1~2%程度の割合で発生する子宮外妊娠への対応でも、不完全な医療が提供されている。

子宮外妊娠とは、受精した初期胚が卵管など子宮体部内膜以外の場所に着床するもの。適切な子宮環境がないため妊娠初期に流産に至り、出産の見込みはない。そればかりか治療しないと急激な大量出血により落命の危険がある。

通常は診断が下れば直ちに手術で除去するなど治療を開始するが、流産前の胎児にはまだ心拍があることになり、流産に至ってない場合は中絶ができないということになる。

アメリカ医師会は、最高裁判決以降、処罰を恐れた薬局が、抗がん剤や子宮外妊娠の薬物治療などに使われるが、中絶作用もあるメトトレキサートの処方を断ったケースがあったと報告している。