また、ヨーロッパのエイドアクセス(Aid Access)、カナダのウィメン・オン・ウェブ(Women on Web)など、外国から遠隔診療で処方を受けることも広がっている。
エイドアクセスは、オンラインでミフェプリストンとミソプロストールを郵送するが、2020年の10月1日から2021年の12月31日までにアメリカから4万5908件の処方要請を受け取っている。コストは110~150ドルで、インド国内の薬局から発送される。
これも規制州では基本的に違法であるが、検挙することは現実的には難しいため、遠隔処方による経口中絶薬の入手は今後も広がるであろう。実際、米国医師会のオンライン誌によると、テキサス州での2021年9月の規制以降、同州からのエイドアクセスへの注文は3倍になっている。
擁護派と反対派の攻防
このように、アメリカの連邦レベルで認可されている中絶薬ではあるが、今回の最高裁判決前にもすでに、30州で規制法が存在し、医師の直接処方を条件とするところも19州あった。
これに対抗し、バイデン政権は2022年7月11日、「投薬時に性別や妊娠などによる差別を禁止した条項(1964年の公民権法第7編とその修正条項)で経口中絶薬の処方は保護されており、違反には罰則を適応する」とし、関連する大統領令にもサインをした。
ただし、中絶規制州法では中絶方法が処置か、薬かは区別されていないため、経口薬による中絶も禁止ということになる。
さらにアメリカでは、薬の認可は連邦政府の管轄であるものの、
実際、テキサス州は保健福祉省のガイドラインを不服としてバイデン政権を即座に提訴した。サウスダコタ州などでも経口中絶薬処方を対象とした規制をすると公言しており、プロライフ団体の生命の権利委員会はオンライン処方を罰するモデル法をネット発表などもしている。
経口中絶薬をめぐるプロライフ派とプロチョイス派の攻防は、すでに始まっているのだ。
規制が先行し、医療制度が追い付いていない
こうした議論の中で見逃されがちなのが、冒頭で触れた「患者に適切な医療が届けられているか」という点だ。結論から言えば否である。
中絶薬の安全性は高いとはいえ、重大な合併症が起こる可能性は0ではない。WHOの自己管理プロトコルでも、事前に十分な情報を得た上で、必要な時に迅速に適切な医療が受けられる環境での服用を必須としている。