結婚を決めた理由

妻との交際期間も約8年が経過した28歳のとき、妻の母親が大腸がんになった。妻は、「もう手遅れで、回復の見込みはない」と泣いた。そのとき狩野さんは、「お母さんに、お前の花嫁姿を見せてやろうか?」という言葉が自然に出ていた。

喜ぶと思った狩野さんだが、妻は、「慌てて結婚したら、がんだと悟られちゃう」と顔を曇らせたため、「あれ?」と思った。

しかし、「本人がそう言うなら……」と思い、結婚の話を積極的に進めようとはしなかったところ、その約3カ月後に妻の母親は息を引き取ってしまう。

深夜2時ごろ、妻から電話がかかってきて、目を覚ました狩野さんが出た途端、「母が今、息を引き取りました」と言う妻。

「……残念だったね、ご愁傷様です」

何と声をかけたらいいのか、頭をフル回転して振り絞ったものの、それ以上言葉が出てこない。すると妻は、「何も言ってくれないならもう切るね」と言って電話を切った。

受話器を持ったままの狩野さんは、「俺が悪者かよ」とつぶやいていた。

それでも、それから2人は結婚に向けて具体的に動き始める。妻は結婚に対して強いこだわりがあり、中でも、ウエディングドレス選びには時間を割いた。狩野さんを連れてはるばる東京にまで足を運び、何軒もショップを見て回り、最終的にはレンタルでなく購入することにした。

ハンガーに掛けられたウェディングドレスの数々
写真=iStock.com/Jaengpeng
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幸せ絶頂と思いきや、妻はマリッジブルーになるなどの紆余うよ曲折があった。

「もともと私は結婚を望んでいなかったのですから、(マリッジブルーに関しても)『あー、そうですか』と放り投げてしまえば良かったのですが、なぜか彼女をなだめてしまいました。たぶん周りに結婚すると言ってしまったのに『やっぱりやめました』というのは、『カッコ悪いな』と思ったのだと思います」