日本と母国の住環境の違いを認識していない外国人住民も多い

二つ目は、生活トラブルが起きやすい理由を具体的に記載したことである。既述の通り、芝園団地では、上階のトイレの水を流す音が深夜に聞こえてくるほど、上下階の間の床と天井は薄かった。

岡崎広樹『外国人集住団地』(扶桑社新書)
岡崎広樹『外国人集住団地』(扶桑社新書)

筆者は中国出身の知人から次のような話を聞いていた。中国には上下の壁が厚い建物もあり、子どもの飛び跳ね音は下に響くことが経験的に分からない人もいる。防音マットを敷く必要性が分からない人もいるかもしれない、というのだ。音が響くという状況が理解できなければ、静かにしなくてはならないとは思いつかないだろう。

日本語の注意事項を母国語へ翻訳するだけでは、その真意が伝わるとは限らない。目的は伝えることではない。芝園団地での最低限の生活ルールを理解し、守ってもらうことである。

そこで、「芝園ガイド」では次のように表現した。

「日本の住宅は、中国よりも壁や床が薄い傾向にあります。中国よりも、足音や物音が響きやすいのです」

「音が響きやすいので静かに」と記述するだけではなく、騒音の原因が母国の住宅と芝園団地との違いにあることを伝えることにより、なぜ静かにしてほしいのかを理解してもらいやすくなる。そうすれば、行動にも結びつくことだろう。

このように芝園団地では、外国人住民に最低限の団地生活の留意事項が伝わるように、母国との生活習慣の違いを伝える工夫をしてきた。

こうした地道な努力の甲斐あって、古参の日本人住民も、「以前と比べれば住環境がだいぶ改善した」と言ってくれている。騒音問題を中心に生活トラブルはまだあるが、住環境は少しずつ改善されてきた。生活トラブルは少なくなり「お互いに静かに暮らせる関係」の「共存」にだいぶ近づいてきた。

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