2008年、ニトリアメリカセミナーにて(写真右より渥美俊一氏、似鳥昭雄社長)。

2008年、ニトリアメリカセミナーにて(写真右より渥美俊一氏、似鳥昭雄社長)。

実は一時期、先生から干されていた時期がありました。門下生のなかでも格段にできが悪かった僕は、何しろ営業職を6カ月でクビになったほどの男です。とにかく口下手で、しかも極度に緊張するタイプなので、先生から質問された瞬間、体が強張り言葉まで出なくなってしまう。いつも怒られて、しまいには何も聞かれなくなってしまいました。認めていただくには、20年ほどかかったでしょうか。

しかし先生はこうもおっしゃっていた。

「個性のきいた人間より、鈍重でコツコツ努力の人間たれ」と。頭が切れてパーッと先回りできる人間はいるけれど、そういう人間は、実は先々成長しない。

「ウサギとカメ」のウサギと一緒で、途中で満足して飽きてしまったりする。

実際、門下生でも昔評価が高かった人は、いつの間にか消えていることも多かった。器用でできる人は、渥美先生から離れていくんですよ。

「もうすべて学んだ」とか、「渥美先生はもう古い」などといって。でもそういう人たちが大成したという話は聞きませんね。

そこへいくと僕は、鈍重で従順だったからよかったのかもしれない。最後まで人を褒めない方でしたけど、一度だけ「似鳥さん、あんたのいいところはね」と話してくださったことがありました。僕のいいところは、素直さと柔軟性だそうです。ダイエーの中内功さんや、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊さん、成功する人の共通項は素直さで、「あなたにはそれがある」と褒めてくださって嬉しかった。

もう、渥美さんのような方は、日本には出てこないでしょうね。

いま、日本は「失われた20年」とか騒いでいます。バブルがはじけて数百兆円。みんな被害を受けました。デフレからどう脱却するかという議論が沸き立っていますが、僕は少なくも今後10年くらいはデフレが続くのではないかと思っています。しかし僕は、悲観はしていません。不況結構、デフレ結構。経済がドンと悪くなれば、土地も建物も安くなり新店舗をオープンさせられます。就職できない人が増えれば、うちとしてはスカウトもしやすくなる。

一番の利点は、社員が成長できることです。経済が上向きのときは、人間は成長しません。でも不況になれば、なんとかしようと努力する。むしろ一番困るのは好景気が長続きすること。社員が成長しませんから。不況、大いに結構です。

こんなときこそ、小から中へ、中から大へと企業がのし上がれるチャンスなのです。だから僕は毎日柏手を打ちながら神頼みしています。「景気が悪くなりますように」って(笑)。

(取材・インタビュー 佐藤ゆみ 構成=三浦愛美 撮影=奥谷 仁 写真提供=ニトリ、柴田書店)