事務仕事のICT化で生産性をアップ

働き方改革のもう一つのカギになったのが、ICT化による生産性の向上だ。

「保育士は、とにかく事務仕事が膨大。連絡帳をはじめ、子ども一人ひとりの午睡チェックや行事記録、会議録など、ありとあらゆる書類の提出を要求されるため、その書類づくりが際限ないんです。これらを手書きでやっていたところをパソコン、タブレット、スマートフォンで入力するようにして生産性を高めていきました。それだけでなく、保育士とは別に事務の職員を配置したことで、先生たちへの負担が大幅に減りました」(美希さん)

撮影=プレジデントオンライン編集部

国基準の1.5倍に人を増やすことと事務仕事のICT化の両輪で、働き方改革に取り組んだことが功を奏し、これまでの課題のほとんどが改善されたという。

しかし、どの業界でもそうだが、大改革には必ず抵抗勢力があらわれる。

「休憩して生産性を高めて残業なしにしましょうというと、最初のうちは、ベテラン先生の中には『休憩を入れずに自分のペースでやりたい』という人もいましたね。またうちは連絡帳のアプリ化をわりと早く導入して、とてもよかったので、杉並区の園長会で勧めたら『そんなのを入れて、親がもっとスマホを見るようになったらどうするんだ』と。なるほど、そういうことまで考えるんですねと思いました」(巌さん)

ベテラン先生にしろ、他の園の園長にしろ、いずれも徐々に改心する人が多かったという。新しいやり方を取り入れることで、目に見えて生産性が上がってきたからだ。

独自の手法で人員を2倍に引き上げ

さらに2年前には、人数を国基準の2倍まで増やした。

「保育の質を上げるには、子ども一人ひとりについて、その子にどんな課題があり、そのためにどう環境を整えるか、といった先生同士の話し合いが非常に重要ですが、1.5倍だと、どうしてもそこに時間が割きづらくて。2倍まで引き上げることで、そういう時間がとれるようになりました。すると先生たちが、前向きに保育をとらえるようになり、保育の質が格段に上がってきたんです」(美希さん)

気になるのは人件費だ。いったいどうやって捻出しているのだろうか。その方法は、いくつかあるという。

「まず事務作業にかかっていたコストをICT化で圧縮することで、その分を人件費に回します。そして補助金ですね。東京都のキャリアアップ補助や杉並区の採用加算など、自治体が用意している補助金をしっかりと請求する。さらにプラスアルファで事業をやっていくことです。たとえば小学生の職場体験や産前産後の親の支援等、補助金が出るので、教育プログラムとして予算を組む。中高生のボランティアの対応にも力を入れています」(美希さん)

工夫次第で人件費は、まかなえるということだ。ならば、どこの園でもできそうだが……。

「そもそも採用できないというケースが相当多いと思います。我々は開園当初から働き方を改革していき、それをうまく発信していったことで『働きやすい園で働きたい』という方に定期的にご応募いただいてきました。業界全体としては、人手不足ですが、ありがたいことに、うちはその点では全く問題ありません。採用については、年々楽になっているという感じですね」(巌さん)