頼りにしていた園長の退職

美希さんが働き方改革の必要性を痛切に感じたのは、立ち上げから一緒にやってきた保育園一園目の園長が辞めていったときだったという。

「すごく信頼して、二人三脚でやってきた職員でしたが、ご縁があって結婚して、すぐに妊娠しました。妊娠中は何とか頑張っていましたが、いよいよ出産となったときに、やはり子育てしながら園長という責任のある仕事はできない、と辞めてしまったのです。そのときに私たちは、園長であろうと、一スタッフであろうと、働き続けられる組織にしていかないといけないと痛感したんです」

実は園長が出産を機に辞めるのは「業界あるある」だという。

「どうやら、2011年に起こった3.11の東日本大震災の時に保育士をしていた方は特に心配されていることがわかりました。わが子を迎えに行かないといけないというシチュエーションで、園長は園児の親全員が迎えに来ないと自分は帰れない。そういった大きな事件や事故があったときに、園長は絶対に外せないとなると、真面目で責任感のある人ほど、子育てしながらではできないという結論になります。ある意味、誠意ある発想ですが反面、そのためにすべてのキャリアを捨てるのはもったいないということもあって、我々としても、そこの課題にしっかりと向き合わないと、業界として発展していかないと強く感じました。子どものいる園長は、保護者の気持ちがよくわかるなど強みがたくさんあるのに、そこで辞めてしまうのは損失ですから」(巌さん)

まず国基準の1.5倍に人員を増加

これらを改善するには、人を増やすしかない。まず保育士の人数を国基準の1.5倍まで引き上げた。

ゆっくり1時間休めるカフェ風の休憩室。仮眠を取る保育士も。
ゆっくり1時間休めるカフェ風の休憩室。仮眠を取る保育士も。(写真提供=社会福祉法人風の森)

「人を増やしたことで、全員が休憩をとれる、残業をしない、有休がとれる状態に変わっていきました。特に休憩室はカフェっぽくして、子どもと接しない休憩時間を60分しっかりとるようにする。お昼に休憩をとるようになって、先生たちは『午後、全然疲れない』と言いますね。休憩中に仮眠をとる先生も多いですが、それだけで午後の生産性が格段に違ってくるようです」(美希さん)

もちろん園長もスタッフと同じように働き、同じように休む。そうした働き方改革を進めていくうちに、スタッフに大きな変化が見え始めた。