「安定した経済成長と物価安定」が一変した
ウクライナ危機が発生してから、早くも約6カ月が経過した。ウクライナ危機は、世界経済を取り巻く環境を激変させた。特に、これまでの世界経済の“グローバル化”の反対ともいえる、世界経済の“ブロック化”あるいは“脱グローバル化”が勢いづいた。
1990年代はじめ、ロシアと米国が対立する冷戦が終結した。それ以降、世界経済は国境の壁が低くなり、人・もの・金が自由に行き来するグローバル化が進展した。国境を跨いで経済活動を行うことができるようになったため、貿易がさかんになり経済は上昇過程を歩むことができた。それによって、“大いなる安定”と呼ばれる経済成長率の高まりと、物価の安定を同時に実現することが可能になった。
しかし、ウクライナ危機によって天然ガスや小麦などの供給体制は世界全体で一段と不安定だ。世界的にインフレが進みやすくなっている。わが国のような資源輸入国、低所得国はより強い逆風に直面している。それは世界経済のパラダイムシフトと考えるべきだ。
一つの変化として、今後、世界的な物価上昇圧力の高まりによって金利は上昇傾向をたどる可能性がある。当面、世界の景気後退懸念は高止まりするはずだ。短期間に米欧などのインフレ率が2%にまで下がるとは考えづらい。FRBはインフレ退治のために追加利上げを行い、短期を中心に金利は上昇するだろう。その後、世界の需要が回復すれば物価は再度上昇し、世界の金利上昇は一段と鮮明化する恐れがある。
“脱グローバル化”が急加速している
ウクライナ危機の影響を考えると、重要なインパクトの一つは、米欧などがロシアと決別し世界経済がブロック化し始めたことだ。それによって、脱グローバル化が加速している。1990年代の初頭、冷戦は終結し世界経済のグローバル化が進んだ。中国は改革開放を推進して工業化の初期段階を歩んだ。農村から沿海部の工業地帯に豊富な労働力が供給され、中国は“世界の工場”としての地位を確立した。韓国や台湾では半導体やデジタル家電の受託製造業が急成長した。ロシアは天然ガスなどの供給力を高めた。