なぜ私たちは「他人の不幸」が気になるのか。早稲田大学名誉教授の加藤諦三さんは「日本人はマイナスな情報に興味をもつ『ネクロフィラス』な傾向が強いのではないか」という――。(第2回)

※本稿は、加藤諦三『パワハラ依存症』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

ゴシップをささやく女性とそれを聞く女性
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元気に生きることを阻害する3つの傾向

人間は基本的に成長欲求と退行欲求の葛藤の中にある、という認識が重要である。

元気に生産的に生きることの障害になるのは、エーリッヒ・フロムのいう衰退の症候群である。

衰退の症候群とは死を愛好するネクロフィラスな傾向、悪質のナルシシズムの傾向、近親相姦願望、の3つの傾向が結合して形成されるものである。

成長の症候群の要素は、それぞれに反対のことである。

たとえば、ネクロフィラスとは死を愛することであるが、それに対するのは生を愛するバイオフィラスである。ネクロフィラスな傾向とは、死を愛する傾向である。「死を愛好する者は必然的に力を愛好する」とフロムはいう。

そして、ネクロフィリアという用語は、性的倒錯や女性の死体を性交のために所有したいという欲望を表現する。ネクロフィラスな人の夢には、殺害、流血、屍体、頭蓋骨、糞便などが頻繁に現われるという。死を愛する傾向などというと、多くの人は自分とはまったくなんの関係もないと思うかもしれない。それは心の病んだ特別な人の話と思うかもしれない。

しかし、決してそうではない。フロムによると、ネクロフィラスな人は病気や埋葬や死について語ることが好きな人である。

「将来の暗い見通し」「他人の不幸」にしか関心を示さない人

子どもの適性や願望を無視して、子どもを塾通いさせることに狂奔する母親に、このネクロフィラスな傾向がないと誰がいえるであろうか。

次第に学歴社会でなくなってきているという話には耳も傾けないで、将来の「暗い見通し」にばかり関心を示す母親の心に、ネクロフィラスな傾向がないと誰がいえるであろうか。パワー・ハラスメントする人にネクロフィラスな傾向がないと誰がいえるであろうか。

ネクロフィラスな傾向が強い人は、話題が常にマイナスのことである。人についても自分についても、不幸になるというようなマイナスな情報に興味を示す。

あの人の結婚はうまくいかない、あの人が始めた事業は失敗する、あの家庭は今はうまくいっているが、そのうち子どもが問題を起こす、あの人は今はエリート・コースだが、そのうち燃え尽きる、などなどが話題としては興味ある。

ネクロフィラスな人とバイオフィラスな人とが恋愛をすると、興味ある話題が違う。離婚原因で性格の不一致などはほとんどない。表面的、形式的には性格の不一致だろうが、本質的には単に両者の情緒的成熟の度合いが違うだけである。別の言葉でいえば、両者の心理的成長のレベルが違うだけ。

人は、あの人たちは不幸になるというようなマイナスな情報に興味をもちやすいが、子どもや部下の適性を見つけるのは難しい。