パワー・ハラスメント(パワハラ)の常習者は、いったいなにを考えているのか。早稲田大学名誉教授の加藤諦三さんは「そうした人は心に根源的不安を抱えている。いわば『大人になった幼児』である」という――。

※本稿は、加藤諦三『パワハラ依存症』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

こちらを指さし怒声を浴びせてくる人
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相手に恥をかかせることが喜びに

パワー・ハラスメントする人は「大声で罵っている」という。彼らは優位な立場から大声で罵ることで、自分の心の傷を癒している。観客は多いほど気持ちが落ち着く。

みんなの前で大声で相手を侮辱することで、相手が恥をかく。それでパワー・ハラスメントする人の心が癒される。相手が不愉快な思いをすることで、癒される。相手が恥をかくことで、パワー・ハラスメントする人の長年にわたって積み重ねられ、隠された怒りが表現される。その時は心が癒される。

だからみんなの前で、大声で相手を侮辱するのである。「みんなの前で大声で」ということが重要なところである。パワー・ハラスメントする人は、そのくらい心は病んでいる。この点を見落とすと、パワー・ハラスメント問題は解決しない。

言っていることが問題ではない。「なぜそれを言うか?」である。

心理的健康な上司は、叱る時には2人の場所で叱る。褒める時にはみんなのいる前で、褒める。パワー・ハラスメントする人に、「叱る時には2人の場所で、褒める時にはみんなのいる前で、褒めましょう」などと言うのは、太陽に「西から昇りましょう」と言うようなものである。

幼児期に根源的な不安を抱えたまま大人になった

パワー・ハラスメントする人は、部下を大声で侮辱することで、自分の根源的な不安をしずめようとしている。自分が自分に絶望している。その絶望感から、サディスティックになっている。

今の時代、パワー・ハラスメントの増加と、幼児虐待の増加とは相関している。

パワー・ハラスメントする人は、幼児期に根源的な不安を抱いたまま社会的、肉体的に成長する。中には、ビジネスパーソンとしては成功している人もいるのだろう。しかし心理的には実存的欲求不満をもち、人生が行き詰まっている。

お腹がすいた、喉が渇いたという肉体的欲求不満はわかる。

しかし心理的な欲求不満はわからない。ことに感情的不健康は周囲の人にはわからない。それが根源的不安である。その行き詰まりがパワー・ハラスメントとして表現される。

「正しい批判」をするだけでは撲滅できない

日本ではパワー・ハラスメントが発覚した場合、パワー・ハラスメントをした上司が異動になったり、解雇されたりすることはあるが、トップが責任を負うことはめったにないという批判をよく聞く。このような批判がよく新聞でいわれるし、ネットに載っている。

パワー・ハラスメントをしていた社員が書類送検されたある会社では、2014〜17年の3年間で、長時間労働などを原因とする自殺者2人、5人が労災認定されているのに「責任者の顔」は一切見えないとネットに批判されていた。正しい批判である。

「そういった状況を生まない企業経営をトップはしているのか?」と、パワー・ハラスメントの問題を企業経営の問題にすり替えられる。

これはネットに書いてあった意見である。その通りであろう。言っていることは正しいが、このような正しいことをいくら叫んでもパワー・ハラスメントはなくならない。こうした批判は正しいけれど、パワー・ハラスメントをなくすためには意味がない。