抗議行動は国内全土に広がり、5月9日には首相公邸に多数の民衆が集まり、マヒンダ・ラジャパクサ首相を辞任に追い込んだ。そして大統領公邸での抗議行動が92日目に入った7月9日、ついに弟のゴタバヤも大統領の座を追われた。2年半前の大統領選では、この国に「繁栄と輝かしい未来」をもたらすと約束していたのだが。

現在の危機の直接的な原因は深刻な外貨不足にあり、民衆の抗議運動に拍車を掛けたのは貧困と経済の失速だ。

「上位中所得国」なのに

外貨不足には複数の要因が関係している。1つは、2019年4月に起きた連続爆弾テロ。追い打ちをかけたのは新型コロナウイルスの流行。これらで観光業が大打撃を受け、海外で働く出稼ぎ労働者からの送金も減った。それでも大統領は公約どおり減税を実施した。当然、国庫は底を突く。510億ドルに上る対外債務の返済(今年だけで約70億ドル)など、もはや不可能だった。

国民は調理用ガスボンベや灯油、ガソリン、砂糖や粉ミルク、医薬品などの生活必需品を手に入れるために行列しなければならなくなった。ガソリンを買うために何日も並んでいるうちに息絶えた人が、今年だけで16人もいる。

この国は、2019年には国際社会で「上位中所得国」に分類されていた。なのに今は、抗議の民衆が大統領一族に「私たちをこじきにした責任を取れ」と叫んでいる。

実際、中産階級の人たちも食うものに困っている。ユニセフ(国連児童基金)によると、現時点で570万人が食事など緊急の人道支援を必要としており、これには約230万の児童が含まれる。しかも資金不足の政府が紙幣を増刷するから、6月の食品価格上昇率は80%を超えた。

実を言えば、この国には1970年代半ばにも人々が食べ物を求めて行列した経験がある。ただし原因は社会主義的な統制経済の失敗と自給自足への過度なこだわりだった。つまり、今とは事情が違う。

当時のスリランカには自動車も少なかった。電気も、ろくに通じていなかった。だが今はオートバイや自動車が普及し、調理にはガスボンベが使われる。小規模農家でも機械化が進んで燃料は必需品だ。

だから外貨不足の政府が6月末に、輸入に頼る燃料の販売先を一部の「必須」部門の労働者に限ると言い出したとき、庶民は激怒した。

そこで反政府の活動家たちは、SNSを通じて7月9日の抗議行動への参加を呼び掛けた。政府は前日に夜間外出禁止令を出し、大人数の治安部隊を配備した。それでも最大都市コロンボには数十万の群衆が押し寄せた。

シンハラ人優遇の弊害

政府の中枢機関がこんなふうに乗っ取られるとは、たぶん誰も予想していなかった。しかし一定の前兆はあった。7月5日には国会で大統領は野党議員にやじを飛ばされ、すごすごと議場から退散した。一方で政府の支持率は、3%台に低迷していた。