Dfはコストを抑えるため、最高級機D4と同じ画像センサーと画像エンジン、他機種のメカニズムが組み込まれた。

「正直に言えば、本社部門よりもレンズ部門や生産工場のメンバーがものすごく応援してくれました。それでなんとか困難を乗り越えて、Dfを発売することができました」

カメラが機械でなくなった

後藤さんは19年に退職するまで、ほとんどすべてのニコンのデジタル一眼レフとミラーレスの開発や企画に関わってきた(ミラーレスについては検討会議に参加)。そんな経験を踏まえて、こう語る。

「いま、カメラは歴史的な大きな転換点にあります。自動車に例えれば、これまでの車には技術とノウハウの塊であるエンジンが搭載されてきましたが、今後の電気自動車、EVを動かすのは電池とモーターです。それと同じようなことがカメラで起こっています」

一眼レフはシャッターやミラーを高速かつ、正確に動作させる複雑な精密機械の塊だった。しかも高い耐久性が要求された。そこから出る音や振動はライバルとの差がつくよい意味での成果であった。一方、ミラーレスには基本的に可動部分が少ない。

「つまり、ミラーレスはレンズを除けば完全な電気製品なのです。これまでニコンは精密機器メーカーとしての強みをカメラで存分に発揮してきました。長年培ってきたメカニズムの耐久性、シャッター音や振動を含めた操作感触のすばらしさなど。ところが、カメラが電気製品になると、ライバルに対してどう差別化を図るかが難しくなってくる。いうなれば、ニコンのカメラの存在意義をどう打ち出すか。それが問われていると思います」

最後に「もし、いまカメラ開発に携われるのであれば、何をやりたいか」とたずねると、こう返ってきた。

「一眼レフシリーズのなかでは『D900』という名称が空白なのですよ。100番台の製品はD100からD850まで埋まっています。ですから、例えばD850をリファインし、D900としてシリーズを終える。『長い間有難うございました。これが最後のニコン一眼レフです。今後はZシリーズで!』と力強く宣言して花道に送り出したいですね」

ただ、「ニコンは現時点で一眼レフの開発を停止し、ミラーレスに注力している」(ニコンイメージングジャパン)。ニコンD900の実現は、はかない夢に終わりそうだ。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

当記事は「AERA dot.」からの転載記事です。AERA dot.は『AERA』『週刊朝日』に掲載された話題を、分かりやすくまとめた記事をメインコンテンツにしています。元記事はこちら
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