商品開発の手法をシステムに

もちろん、それを解決する手段がなければ商品化できないのですが、開発担当部署は日頃から医学的・科学的知識は相当に蓄えています。そこで「こんな“あったらいいな”はどうでしょう」と提案を受けたとき、その知識の蓄積から「もしかしたらあれが使えるかも」とピンとくるわけです。あとはいかにスピーディに開発するかです。私もアイデアを出していますが、小さな改善案でも採用されると嬉しいんです。提案制度は社員のモチベーション向上にも繋がっていると思います。

審査する側として私が気をつけているのは、採用可否の判断になるべく自分のセンスが入らないようにすることです。ニッチ戦略を始めた現会長は勘の優れた人で、自身が先頭に立って商品開発をしていました。けれど個人の才能は継承できませんし、私にはあのセンスはありません。企業としてこれからも成長していくには、商品開発の手法をシステムに落とし込んでいかないといけない。私はそのシステムづくりに努力をしてきました。

プレゼンで私が判断する基準は、技術面で効果が出せるか/ユニークでほかにない商品か/自分たちのマーケティング技術で伝えられるかの3点で、大きなふるいにかけるだけです。私が「そんなん伝わらへん!」と却下しても、それはアイデアがダメと言っているわけではないので、翌月に同じアイデアが違うパッケージ案/CM案で出てきて復活することもあります。

睡眠中の口呼吸を予防する「ナイトミン鼻呼吸テープ」は、私が3回却下したにもかかわらず4回目で商品化され、大ヒット商品になりました。私が却下し続けたことで半年は商品化が遅れてしまいました。提案した社員は「ほれ見ろ社長、見る目ないわぁ」と言ってるんじゃないですか(笑)。いや言ってもらっていいんです。社長が却下しても優れたアイデアが商品化できる仕組みが機能したなら、それは私の努力が結実したということですから。

これから私たちが目指すのは、小林製薬ならではの商品開発を海外でも実現することです。私たちはニッチゆえ海外進出が遅れていました。熱が出たときに氷嚢やおしぼりで額を冷やす習慣は日本ならではのもので、海外では「熱さまシート」は伝わらない/売れないと思っていたからです。ところが米国で偏頭痛用として展開したところ、思わぬヒットになりました。海外にもその土地ならではの「あったらいいな」がたくさんあるはずですし、ある国で開発した商品が別の国のニーズを掘り起こすかもしれません。

アイデアは無限大です。世界中に「小さな池」をたくさん見つけて、これからも成長していきたいです。

(構成=渡辺一朗)
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