音楽番組の「代役要員」でデビューの場を迎えたBTS
もちろんデビューまで漕ぎつけたからといって人気が出る保証はない。韓国では毎年50~60組のアイドルが誕生するため、この競争に勝つためには再び多額のプロモーション費用がかかる。したがって、結局はノウハウや資金が豊富にある大手事務所のアイドルばかりが最終的な勝者として生き残ることになる。零細事務所のアイドルたちは、テレビやラジオに出演すらできないまま、活動が終わってしまうことの方が多いのだ。
ところが多くのニューメディアが登場し、最近は中小規模の芸能事務所出身のアイドルにも、成功のチャンスが回ってきた。その良い例が、メディアから「土スプーンのアイドル」と呼ばれたBTSのサクセスストーリーである。
BTSを生み出したパン・シヒョクは、TWICEやNiziUで有名なガールズグループの名門プロで三大事務所のひとつ「JYP」の作曲家出身だ。2005年に独立し、「ビッグヒットエンターテインメント」という小さな企画会社を設立。13年にBTSをデビューさせた。当時のK-POPシーンは今よりも寡占状態で、くだんの三大事務所が業界を完全に掌握していて、中小プロダクション所属のアイドルに出る幕はなかった。
BTSも例外ではなく、大手に所属しているアイドルの出演がキャンセルになった際に「穴埋め」でやっとステージに立たせてもらえるという状況だった。デビューの場だった13年6月13日の「Mカウントダウン」も、「穴埋め」の代役出演だったというエピソードは、ファンらの間でも有名だ。
地上波でなくオンラインの“ニューメディア”に勝機を見いだす
17年発売のアルバムの隠しトラックに収録された『海(SEA)』の歌詞には、放送でカットされたことが数え切れないくらいあって、誰かの穴埋めをすることが俺たちの夢だなどと、無名時代の哀しさが表現されている。このような環境の中で、パン・シヒョクは地上波での大手事務所のアイドルとの競争に勝算がないということにいち早く気付き、主流メディアではなくニューメディアを活用したオンライン戦略に集中するようになる。
BTSはデビュー前の11年からTwitterとブログを始め、YouTubeやネイバーのVライブ(ファンとリアルタイムでコミュニケーションするライブ配信アプリ)などの動画チャンネルを開設し、自ら情報を発信してファンを作っていった。
BTSは、複数のニューメディアを巧みに使い分けた。Twitterには簡単な挨拶を中心にアップロードし、YouTubeでは公式映像と共にメンバー個人が撮影・編集した映像が公開される。Vライブではリアルタイムでファンたちとチャットする。これらを通じて、デビュー前の練習生時代のトレーニングの様子や、年頃の少年らしいイタズラをしあう姿など、ありのままを伝えた。