ナイキ新厚底のターゲットは「19万人の市民ランナー」
「アルファフライ2」の開発にはキプチョゲ、大迫傑というトップ層だけでなく、マラソンを3~4時間で走るランナーの意見も聞き入れたという。前モデル「アルファフライ」は爆発力があった一方で履く人やコースを選ぶシューズだったが、「アルファフライ2」はさらにエネルギーリターンが高まり、安定性が大幅にアップ。一部のトップ選手だけでなく、市民ランナーを含めた幅広い層から支持を得ることができるだろう。
「アルファフライ」を着用し、マラソンで2時間4分56秒の日本記録を打ち立てた鈴木健吾(富士通)は「アルファフライ2」を履いた感想を次のように述べている。
「前のモデルと比べて一番気に入っているポイントは、前に進む推進力が上がり、しっかりとしたサポートを受けることができるところです。これにより、スムーズな体重移動がしやすくなりました。さらに、ソールの安定感も確実に上がっており、走りやすくなっています。そのほかにも、アッパーのフィット感が上がり包み込まれる印象を受けました」
ナイキ着用者でもアルファフライとヴェイパーフライ派に分かれていたが、今後は「アルファフライ2」が主流になっていきそうだ。この2年間は他社の新モデルに押され気味だったナイキだが、「アルファフライ2」の評判次第では、他社から履き替える選手も出てくるかもしれない。
2023年正月の箱根駅伝でナイキが再びシェアを伸ばせば、市民ランナーへのアピールになる。かつての厚底レーシングシューズは国内で数万人ほどしかいないシリアスランナー向けだったが、もし、マラソンを3~4時間台で走る市民ランナーの中上級レベルまで「アルファフライ2」が浸透したら、一気にユーザー数が増加する可能性もある。
コロナ禍前のデータである「全日本マラソンランキング2019」によると、男性のサブ3(3時間切り)達成者は3.1%(9274人)しかいないが、5時間切りとなると65.6%(19万4431人)もいる。ナイキにとってはターゲットの客が19倍に激増する計算だ。
近年のナイキはトップ選手に向けて「速さ」を追及してきたイメージが強かったが、世界陸連の新ルールで靴底は40mm以下に制限された。靴底を厚くすることでスピード化を図るフェーズから、次のフェーズに入ったようだ。
リアルイベントが戻りつつあるタイミングでの新モデル登場。市民ランナーの「速く走りたい!」という気持ちを大きく刺激することになりそうだ。その意味でも、今回のオレゴンでの世界陸上でのナイキvsアシックスのバトルからは目が離せそうにない。