鄧小平「国権が人権を圧倒する」

こう楽観的な「中国期待論」を語るブッシュに対して海部は、悲観論で応じている。

城山英巳『天安門ファイル 極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)
城山英巳『天安門ファイル 極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)

「中国側から自分に、個人に基本的人権があるように、国家にも基本的な『国権』があり、中国の統一を維持するためには、『国権』が尊重される必要があると説明するので、自分からは、国家は国民があって初めて国家なのであるから、個人の人権の方がより重要であると言った」

「人権」と「国権」の議論をめぐっては1989年11月、日中経済協会訪中ミッションと会見した鄧小平が「国権が人権を圧倒する」と述べたが、中国側は海部に対しても引き続き同じ論理を展開していた。ブッシュはこう話す海部に対して中国は「(人権の方が重要であると)未だ理解していない」と述べ、会談記録は終わっているが、人権重視を表明した海部は翌1991年8月、西側諸国首脳の中でトップを切って訪中し、中国共産党・政府を喜ばせた。

アメリカの顔色も窺う対中外交の姿勢は変わらず

翌1992年10月には天皇、皇后両陛下まで中国の土を踏む。腫れ物に触るように中国共産党に気を遣いながら、米政府の顔色も窺い、薄氷を踏むように進めた日本の対中外交――。

日本を頭越しにした米国の対中外交が、日本政府を独自の対中外交に向かわせることは歴史が証明しているが、中国のみならず米国の「呪縛」からも逃げられないその本質的な日中関係の構図が天安門事件から33年が経過しても大きく変わったとは言い難い。

(敬称略、肩書は当時)

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