これまで棄権していた人たちを、投票所に向かわせた
SNSではすっかり「ならず者の党」ということで評価は定着しているが、NHK党はもはやそのような扱いで片づけられるほどのネタ政党では済まなくなっている。
今回、全国に13ある複数人区のうち、東京を除く12で改選数と同数の公認候補を立てた。改選4の大阪選挙区には4人、といった具合。従来の政党の選挙の戦い方とはかけ離れているが、N党の選挙戦略に基づけば、非合理とは言い切れない。立花氏の狙いは大きくいってふたつある。
ひとつは「金もうけ」。そう堂々と言ってのける。「僕は元パチプロなので負けるギャンブルはしない。選挙はお金もうけができます」。候補者の選挙ポスターには「私の当選は無理です。しかし、あなたの1票で約250円、選挙区と比例区の2票で約500円の政党助成金がNHK党に交付されます」などと記される。同党の浜田聡・参院議員(45)は、「あなたの1票は死に票ではない」というメッセージだと説明する。
年間総額315億円にのぼる政党交付金の半額は、当落と関係なく、選挙で党が得た票数に応じて配分される。地縁血縁の薄い都市部の複数人区にたくさん候補を出せば、「浮動票」が積み上がって交付額が増えるうえ、比例票の積み増しも期待できる。広告効果も計り知れない――。勝算や収支を表計算ソフトですべてはじきだし、自民党と同じ最多82人の候補者を擁立した。
〔朝日新聞デジタル「選挙は『金もうけ』 自民と同数候補を擁立、NHK党・立花氏の真意」(2022年7月1日)より引用〕
NHK党が選挙に勝つ気があるのかと問われれば「ない」というほかない。
しかし断っておくが、あくまでそれは「勝つ」という言葉を「選挙で当選して議席を得る」と定義すればの話である。そうではなくて、「日本が定める選挙制度を“ハック”してカネを稼ぎ、なおかつ大衆社会に実効的な存在感と影響力を獲得する」ということを「勝つ」と定義するならば、NHK党はまさしく大勝利を収めている。
NHK党からすれば選挙で得られる議席など、自分たちの「勝利」に付属してくるかもしれない「もらえたらラッキーなオマケ」程度のものでしかないだろう。かれらは「議席を取る」ためではなく、これまでどの政党からも掬いあげられなかった不満を燻ぶらせたまま声を出せずにいた「取り残された者たち」のために活動している。
世に不満を持ちながら、その不満が既存の政党や政治家からまったくといってよいほど相手にされないがゆえに、この政治ひいては社会全体に対する「基本的信頼感」を喪失してしまった者たちを呼び戻すことにNHK党は成功している。
日本の選挙制度を「ハック」して見せること、そしてその「ハック」で得た利益を、この社会に得も言われぬ不満を持つ人のために還元する(という演出)を行うことによって求心力をさらに拡大する――これこそ、ポピュリズムの令和最新アップデート版だ。
政見放送で度肝を抜く暴言放言を連発したかと思えば、議会制度を「金儲けの手段」と平然と言い放つなど、あらゆる意味で政治制度を挑発的に利用する。既存のルールや社会的合意を嘲笑うかのようなスタンスは、以前なら「もう自分は政治になんかなにも期待していないから」と棄権していた人びとに投票所へと向かう動機を与える。
立花氏が率いるNHK党は、「取り残された者たち」にとって、自身に与えられた一票が議会民主制に対する信任投票ではなくて、むしろ逆に「混ぜっ返し」あるいは「意趣返し」に使えるという筋道を与えてくれたのだ。